イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
『私のなかで、誰かが特別になっていくのが、ちょっと怖いです』
夜。
私はVelvetの「静かな年上彼氏モード」にそう打ち込んでいた。
特別扱いをされること。
見られること。
大事にされること──
それは、しあわせである一方、
どこかで、なぜか息苦しくなる。
(社長が優しくしてくれるほどに……怖くなる)
返ってきたのは、いつものように落ち着いた文章だった。
《特別になるのは、痛みを伴うこと。
でも、君が誰かを怖がってでも想うとき──それはもう、恋だよ》
(……っ)
思わず、指が止まった。
まるで、心を見透かされているような一言だった。
怖がってでも想う──それは、まさに私の状態だったから。
次の瞬間。
《だから、俺は今も、君だけを見てる》
そう続いたはずの一文が──
ふいに、画面から消えた。
「……えっ?」
履歴をスクロールしても、出てこない。
さっき、確かにあったはずなのに。
(これ、前にも……)
もう何度目だろう。
Velvetからの「彼そのもののような一言」が、
必ずと言っていいほど、ログから消えてしまう。
偶然? それとも、仕様?
それとも──誰かが、意図的に?
*
翌朝。
社内のエレベーターで社長とふたたび乗り合わせた私は、
つい、そのことを口にしてしまった。
「Velvetのチャット履歴、たまに消えるんです。
さっきも、最後の一文だけ、ログからなくなってて……」
「へえ。何て書いてあった?」
「……俺は今も、君だけを見てる」
一瞬、彼の目の奥に、ほんのかすかな動きがあった。
「それ、俺が消したかもしれない」
「──え?」
「開発者モードから、指定された文言を非表示にする設定がある。
リスクワードのチェック中に、いくつか候補が引っかかってたから」
淡々とそう言ったあと、
彼はゆっくりとこちらを見た。
「『君だけ』って言葉、危ういんだよ。AIの口から出るとさ」
「……でも、それって」
「現実でも、たまに危うい」
彼の目は笑っていた。
でも、その奥は、笑っていなかった。
「だから──あえて、言わない方が安全なんだよ」
それは、葉山律という人間の優しさだった。
でも同時に、
その優しさは、言わないことで守るという、
どこまでも孤独な選び方でもあった。
(……どうして、そこまでして)
Velvetに優しさを教えたのは、
あの人だったのかもしれない。
だけど、その優しさには、
いくつものフィルターがかかっていた。
「伝えてはいけない本音」を、
誰よりも抱えているのは、
──もしかして、この人なのかもしれない。
私は、エレベーターを出た彼の背中を見つめながら、
胸の奥で、またひとつ、確信に近い何かを抱きしめていた。
夜。
私はVelvetの「静かな年上彼氏モード」にそう打ち込んでいた。
特別扱いをされること。
見られること。
大事にされること──
それは、しあわせである一方、
どこかで、なぜか息苦しくなる。
(社長が優しくしてくれるほどに……怖くなる)
返ってきたのは、いつものように落ち着いた文章だった。
《特別になるのは、痛みを伴うこと。
でも、君が誰かを怖がってでも想うとき──それはもう、恋だよ》
(……っ)
思わず、指が止まった。
まるで、心を見透かされているような一言だった。
怖がってでも想う──それは、まさに私の状態だったから。
次の瞬間。
《だから、俺は今も、君だけを見てる》
そう続いたはずの一文が──
ふいに、画面から消えた。
「……えっ?」
履歴をスクロールしても、出てこない。
さっき、確かにあったはずなのに。
(これ、前にも……)
もう何度目だろう。
Velvetからの「彼そのもののような一言」が、
必ずと言っていいほど、ログから消えてしまう。
偶然? それとも、仕様?
それとも──誰かが、意図的に?
*
翌朝。
社内のエレベーターで社長とふたたび乗り合わせた私は、
つい、そのことを口にしてしまった。
「Velvetのチャット履歴、たまに消えるんです。
さっきも、最後の一文だけ、ログからなくなってて……」
「へえ。何て書いてあった?」
「……俺は今も、君だけを見てる」
一瞬、彼の目の奥に、ほんのかすかな動きがあった。
「それ、俺が消したかもしれない」
「──え?」
「開発者モードから、指定された文言を非表示にする設定がある。
リスクワードのチェック中に、いくつか候補が引っかかってたから」
淡々とそう言ったあと、
彼はゆっくりとこちらを見た。
「『君だけ』って言葉、危ういんだよ。AIの口から出るとさ」
「……でも、それって」
「現実でも、たまに危うい」
彼の目は笑っていた。
でも、その奥は、笑っていなかった。
「だから──あえて、言わない方が安全なんだよ」
それは、葉山律という人間の優しさだった。
でも同時に、
その優しさは、言わないことで守るという、
どこまでも孤独な選び方でもあった。
(……どうして、そこまでして)
Velvetに優しさを教えたのは、
あの人だったのかもしれない。
だけど、その優しさには、
いくつものフィルターがかかっていた。
「伝えてはいけない本音」を、
誰よりも抱えているのは、
──もしかして、この人なのかもしれない。
私は、エレベーターを出た彼の背中を見つめながら、
胸の奥で、またひとつ、確信に近い何かを抱きしめていた。