イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
「望月さん、今日のお昼、ちょっとだけ付き合ってもらえませんか?」

会議が終わった帰り道、
水野さんが静かに声をかけてきた。

「え? 私ですか?」

「はい。……まだ行ったことない場所、案内します」


そう言って連れてこられたのは、
Corvenビルの最上階──屋上。

顔認証ゲートを通り抜け、
初めて足を踏み入れる空間だった。

(ここ……こんなところがあったんだ)

ビルの上から広がる景色は想像以上に広くて、
春の風がやわらかく髪を撫でていく。

「すごい……まるで、別世界みたい」

「そうでしょう? 実は、僕の秘密の避難場所なんです」

水野さんが笑いながら、
屋上の隅にあるベンチを指差す。

「ここ、気に入ってくれるといいなって思ってました」

「はい。もう、すでに……すごく」

カフェテリアとはまったく違う、開けた空の下。
外の風を感じながら並んで座るだけで、不思議と心が落ち着いた。

 

「最近、よく頑張ってますよね」

「え……?」

「カフェテリアでも自主学習してるし、リュックも参考書でパンパンですよね。……見ちゃいました」

「恥ずかしいです」

「なんで? すごくかっこいいですよ」

いつものようにやさしく笑ってくれる水野さん。

社長とは違う穏やかさで、
ちゃんと見てくれて、ちゃんと言葉にしてくれる人。

(……私は、この人に甘えたくなってるのかもしれない)

 
そう思ったとき、風がふっと吹いて、
私のメモが一枚、ベンチの下に舞い落ちた。

「わっ、すみません!」

紙を追いかけようとした瞬間、
水野さんと同時に身をかがめて、手が重なった。

「……っ」

指先が、ふれてしまった。

一瞬だけなのに、
思わず息が止まりそうになる。


「……すみません」

「いえ……俺のほうこそ」

お互い、少しだけ照れて手を引く。

間に沈黙が流れたあと、
水野さんがぽつりとつぶやく。

「……やばいな。今、普通にドキドキしてる」

「え……」

「たぶん、顔に出てますよね。俺」


耳まで赤くなっている彼の横顔を見て、
私もなんて返していいかわからなかった。

「告白」じゃない。
だけど、気持ちはたしかに伝わってしまった。

手のぬくもりも、言葉の熱も。
やさしい風に溶け込んで、胸の奥に残っていた。


ふと、背後に気配を感じて振り向くと、
社長がこちらを見ていた。

いつからそこにいたのかわからない。

「昼休み中? 書類、確認ありがとう。
あとで少しだけ話そうか」

「……はい」

声は穏やかだった。
けれど、瞳の奥に何かが揺れていた。


社長が去ったあと、
私と水野さんの間には、風の音だけが残った。

ふれた指先の感覚が、まだ残っている。

でも私の心は、
それ以上に誰かの視線に、強く揺れていた。
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