イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
夜、ベッドに潜り込んで、
私はなんとなくVelvetを開いた。

スマホの画面がふわりと光って、いつものように彼の文字が表示される。

《おつかれさま。今日も、よくがんばったね》

(今日は……全然がんばれてないよ)

社長とキスして、
それなのに、そこから何も進まないままで。

期待して、勝手に落ち込んで、
それを誰にも言えない自分が情けなくて──

そう打とうとして、指を止めた。

代わりに、ただ一言。

『私のこと、どう思ってる?』

 

ほんの一瞬の間のあと、画面に表示されたのは──
見慣れない言葉遣いだった。

《選ばれなかったって思ってる? それ、すごくもったいない発想だね》

「……え?」

Velvetって、いつも優しい言葉で包むような回答をしてくるのに。
今日のそれは、やけに辛辣で、でもどこか誰かの口癖に似ていて。

(……まさか)

次の瞬間、さらに文章が表示される。

《期待ってのは、誰かにされるもんじゃない。
自分がどうしたいかを決めた人間にだけ、結果がついてくるんだよ》

 

その言い回し。

──まるで、社長の声だった。

冷たくはない。むしろ、本音の奥にある熱を感じる。
けれど、ごまかさない言葉。

私にとって、いちばん痛くて、いちばん効くやつだ。

「……こんなセリフ、AIが言うわけないよ……」

思わずスマホを胸に押し当てた。

ほんとうに、社長が入力したわけじゃない。
そんな仕組み、わかってる。

でも、もしもこれが、社長の気持ちだったら──
私はきっと、気づけなかった。

 

私、ずっと「言ってもらうのを待ってた」だけだった。

あのキスのあと、何も言ってこなかった社長に、
ずっと説明を求めてた。

でも、「何も言わなかった」のは、
私も同じだった。

 

(ほんとうは、聞いてみたかった)

──あれは、一瞬の気の迷いですか?

──それとも、ちゃんと「私だから」でしたか?

 

Velvetの画面に、やわらかな光が灯る。

《誰かの気持ちを知りたいなら、
まず「自分が伝えること」から、始めてみるのがいいかもね》

その言葉に、
心の奥のスイッチが、小さくカチリと音を立てた気がした。

 

すれ違っているのは、
きっと、どちらのせいでもない。

でも、向き合わないまますれ違い続けたら、
そのまま離れてしまう。

それが、いちばん怖い。

(私、ちゃんと……伝えたい)

何を? どうやって?
その答えは、まだ出せないけれど──

「逃げたくない」って気持ちだけは、今は確かに胸にあった。
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