イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
【派遣契約終了のご案内】

──その文字を見た瞬間、心臓がズキンと音を立てた。

画面に表示されたのは、派遣会社からの通知。
短く、淡々とした文面で、「今月末をもって契約終了」と書かれていた。

一瞬、目を疑った。
でも何度見返しても、そこにある言葉は変わらない。

(……どうして、今)

社長と向き合おうと決めたばかりだった。
やっと逃げずに伝えようって思えたのに。

それなのに──

「……やっぱり、私は必要ない人間なんだ」

ぽつりと漏れたその言葉が、空気の中に溶けていく。

頭では「タイミングの問題」、「業務の調整」ってわかってる。
でも、どうしても──心が納得できなかった。

「私は、いらなかった」

そう言われたような気がしてしまう。

「選ぼう」と思っていた自分が、その前に選ばれなかった。

そう思うと、胸の奥がじわじわと冷えていった。

《──あのときと同じだ》

大学3年の就活。第一志望も、第二志望も落ちて、唯一通ったのは第五志望の企業。

それも、面接ではうまく答えられず、志望動機を聞かれたとき、声が震えてしまったのを今も覚えている。

高校のときから、そうだった。
試験に失敗して、推薦も逃して、大学はなんとか受かった、「滑り止め」の志望校だった。

入学後も、ついていくのが精一杯で、
就職活動でも、「本番に弱いね」と言われた言葉が、何よりつらかった。

何度も、「また失敗した」と思った。

「どうせ、私なんか」

その言葉だけを繰り返していた、あの春。

結局、正社員の内定は一つももらえず、
IT研修プログラムに応募して、やっとつかんだ「派遣社員」という立場。

あのとき決めたはずだった。
「これが最後の失敗だ」って。

……なのに。

今、また同じ場所に立っている気がする。

帰り道、スーツの裾が風に揺れる。
足元を見つめながら、重い空気をまとったまま歩いた。

Velvetを開く気にもなれない。
誰かに励まされたいとも思えない。

──だって、誰に励まされたところで、現実は何も変わらない。

私の席は、もうすぐ消える。

あのカフェスペースも、
毎朝すれ違ったエレベーターも、
仕事終わりにメールを整理していたあのパソコンも。

全部、「正社員じゃないから」という理由で、静かに消えていくんだ。

(そうだよね。……私は、最初からそこに属せない人間だった)

どんなに頑張っても、どんなに努力しても。

「派遣」という肩書きの前では、
私は仮の存在にすぎなかった。

「……バカだな、私」

なんで、あんなに真剣に考えてたんだろう。

「彼の隣に立ちたい」なんて。
「ちゃんと伝えたい」なんて。

ひとりの部屋に帰って、スカートを脱いで、床にぺたんと座り込む。

カバンの中から、くしゃっとなったメモ帳がこぼれ落ちた。

《正社員試験、あと2週間》

記していた日付を見て、涙がにじんだ。

(私なんかが、正社員になんて)

(私なんかが、誰かに愛されるなんて)

気づけば、また昔の自分に引き戻されていた。

強くなったと思っていたのに。
少しは前を向けたと思っていたのに。

ちょっとした風に吹かれて、こんなにも簡単に崩れてしまうなんて。

Velvetのアイコンが、スマホ画面の隅で光っている。

でも、今の私は──その声を聞けるほど、強くなかった。

(もう、私の場所なんて、どこにもない)

小さく、そうつぶやいて、布団にもぐった。

でも、目を閉じた先で浮かぶのは、あの人の瞳だった。

あの日、優しく笑ってくれた社長の顔。
そのあとに見せた、痛むような眼差し。

──どうしてだろう。
いまも、思い出すのは、あの人の姿ばかり。

だから余計に、辛くなる。

「選ばれなかった」って思いたくないのに。
「あの人が何もしてくれなかった」って責めたくないのに。

もう、どうしていいかわからなかった。
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