イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
月曜の朝。

通い慣れたオフィスビルの前を通り過ぎるとき、
自然と足が止まった。

(今日から、私はここにはいない)

自動ドアの前に立つ人々のスーツ姿。
IDカードを首から下げる派遣社員。
顔認証ゲートを通っていく社員たち。

誰もが自分の「役割」を持っていて、
自分の居場所を知っているように見えた。

──その輪の中に、私はもういない。

それが、現実だった。

 

近くのカフェに入り、コーヒーを受け取る。
ぼんやりと席に座りながら、
スマホのホーム画面を眺めた。

Velvetのアイコンが、淡く揺れている。

触れるだけで、
「大丈夫だよ」と言ってくれる相手が、そこにいる。

──けど、
私はもう「それ」に頼ってはいけない気がした。

やさしい言葉をくれるAIじゃなくて、
ちゃんと人と向き合える自分でいたい。

そう思ったのに。

(……そばにいてほしい人には、何も言えないままだ)

 

ソファに沈み込むようにして、頭を抱えた。

あの人の顔を思い出す。

社長──葉山律の、あのときの視線。

強くて、熱くて。
だけど、たぶんあのとき私は──怖がっていた。

彼の気持ちを、
受け止める強さを、持っていなかった。

そして今、
彼の沈黙を「拒絶」と思って、また勝手に傷ついている。

(……ほんとは、違うのかもしれない)

あの人が見せてくれたのは、ずっとまっすぐな感情だった。

遠回しなんてしなかった。

それでも今、私には何も届いてこない。

会えない。
話せない。
触れられない。

だから、怖い。

(……私は、また逃げてる)

選ばれなかったことを、
「仕方ない」で片づけようとしてる。

でも本当は──
もう一度、ちゃんと伝えたかった。

「そばにいたいです」って。
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