イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
第7話 もう一度、あなたの隣へ
その日、本屋に足が向いたのは、
なんとなく気が紛れればいいと思ったからだった。
勉強のやる気が出ない。
資格試験に向けた参考書も、数ページで止まったまま。
部屋にいると、あのビルのことを思い出す。
あの人の声を、ふと思い出してしまう。
(──忘れたくないけど、思い出すのはまだ痛い)
そんな気持ちを持て余して、
私は静かな書店の棚の前で立ち尽くしていた。
「……こんにちは」
その声が聞こえたとき、思わず肩がびくっと動いた。
顔を上げると、そこにいたのは──水野さんだった。
ジャケットの上から斜めがけのカバン。
手には、私が見ていたのと同じIT資格の参考書。
「……え?」
声が出なかった。
けれど、水野さんは驚いた様子もなく、
少しだけ目を細めて、やさしく笑った。
「また、勉強を始めようとしてるんですね」
「……あ、はい。まぁ……その、ちょっとずつ」
自分の声がひどく情けなくて、
棚の陰に隠れるように視線を逸らした。
でも水野さんは、責めるようなことは言わなかった。
「このへんの分野、独学だと難しいですよね。
もしよかったら、このあと少しだけ時間ありますか? カフェで」
「……え?」
「僕も買いにきたところだったんです。
近くに、静かで落ち着ける店があるので」
その申し出に、うなずいてしまったのは、
たぶん「誰かと一緒にいたい」と、心のどこかで思っていたから。
「この人なら、少しだけ寄りかかっても大丈夫かも」と思ってしまったから。
カフェは、本屋のすぐそば。
ガラス張りの壁から柔らかい光が差し込んでいて、
本を広げるにはちょうどいい静けさがあった。
「ここの概念、ややこしいですけど──
あえて例えるなら、電車の乗り換えみたいなものなんです」
水野さんは、私の持っていた参考書の一文を読みながら、
丁寧に図を描いてくれた。
その説明が、妙にすとんと胸に落ちて、
私は思わず「すごい」と声を漏らした。
「わかりやすいです、ほんとに」
「よかったです。
望月さんの努力が報われるように、陰ながら応援してますから」
「陰ながら応援してます」。
その言葉が、胸にじんと沁みた。
社長に言われたかった言葉を、
別の誰かに言われた瞬間、
心が少し揺れたのがわかった。
──でも、それは罪じゃないと思った。
どんなかたちでも、
前を向かせてくれる人がいることは、
きっと、悪いことじゃない。
そして──帰り道。
スマホの通知が、何件も届いていた。
【Velvet、応答タイミングに異常報告】
【開発元Corven、システム調整の可能性を示唆】
【公式発表は本日午後】
(……やっぱり)
私の胸の奥で、
何かがざわめいた。
Velvetは、彼の“想い”のようなものだった。
それが今、
崩れかけている。
私が支えてもらった、あの言葉たち。
私だけに届いたように感じていた、やさしさ。
それが、今──
誰にも届かなくなりつつある。
(……あの人、どんな顔してるんだろう)
その夜。
ニュース番組のワイド特集に映った、彼の姿。
フラッシュを浴びながら、
まっすぐ報道陣の前に立ち、頭を下げていた。
「──現在、原因を究明中です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
誠実で、言い訳のひとつもしないその声に、
胸がぎゅっと締めつけられた。
(……わたし、そばにいたい)
ようやく、はっきりと思った。
あの人の肩に、少しでも自分の力を添えられるなら。
ただ、支えになれるなら。
──今度こそ、逃げたくない。
なんとなく気が紛れればいいと思ったからだった。
勉強のやる気が出ない。
資格試験に向けた参考書も、数ページで止まったまま。
部屋にいると、あのビルのことを思い出す。
あの人の声を、ふと思い出してしまう。
(──忘れたくないけど、思い出すのはまだ痛い)
そんな気持ちを持て余して、
私は静かな書店の棚の前で立ち尽くしていた。
「……こんにちは」
その声が聞こえたとき、思わず肩がびくっと動いた。
顔を上げると、そこにいたのは──水野さんだった。
ジャケットの上から斜めがけのカバン。
手には、私が見ていたのと同じIT資格の参考書。
「……え?」
声が出なかった。
けれど、水野さんは驚いた様子もなく、
少しだけ目を細めて、やさしく笑った。
「また、勉強を始めようとしてるんですね」
「……あ、はい。まぁ……その、ちょっとずつ」
自分の声がひどく情けなくて、
棚の陰に隠れるように視線を逸らした。
でも水野さんは、責めるようなことは言わなかった。
「このへんの分野、独学だと難しいですよね。
もしよかったら、このあと少しだけ時間ありますか? カフェで」
「……え?」
「僕も買いにきたところだったんです。
近くに、静かで落ち着ける店があるので」
その申し出に、うなずいてしまったのは、
たぶん「誰かと一緒にいたい」と、心のどこかで思っていたから。
「この人なら、少しだけ寄りかかっても大丈夫かも」と思ってしまったから。
カフェは、本屋のすぐそば。
ガラス張りの壁から柔らかい光が差し込んでいて、
本を広げるにはちょうどいい静けさがあった。
「ここの概念、ややこしいですけど──
あえて例えるなら、電車の乗り換えみたいなものなんです」
水野さんは、私の持っていた参考書の一文を読みながら、
丁寧に図を描いてくれた。
その説明が、妙にすとんと胸に落ちて、
私は思わず「すごい」と声を漏らした。
「わかりやすいです、ほんとに」
「よかったです。
望月さんの努力が報われるように、陰ながら応援してますから」
「陰ながら応援してます」。
その言葉が、胸にじんと沁みた。
社長に言われたかった言葉を、
別の誰かに言われた瞬間、
心が少し揺れたのがわかった。
──でも、それは罪じゃないと思った。
どんなかたちでも、
前を向かせてくれる人がいることは、
きっと、悪いことじゃない。
そして──帰り道。
スマホの通知が、何件も届いていた。
【Velvet、応答タイミングに異常報告】
【開発元Corven、システム調整の可能性を示唆】
【公式発表は本日午後】
(……やっぱり)
私の胸の奥で、
何かがざわめいた。
Velvetは、彼の“想い”のようなものだった。
それが今、
崩れかけている。
私が支えてもらった、あの言葉たち。
私だけに届いたように感じていた、やさしさ。
それが、今──
誰にも届かなくなりつつある。
(……あの人、どんな顔してるんだろう)
その夜。
ニュース番組のワイド特集に映った、彼の姿。
フラッシュを浴びながら、
まっすぐ報道陣の前に立ち、頭を下げていた。
「──現在、原因を究明中です。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
誠実で、言い訳のひとつもしないその声に、
胸がぎゅっと締めつけられた。
(……わたし、そばにいたい)
ようやく、はっきりと思った。
あの人の肩に、少しでも自分の力を添えられるなら。
ただ、支えになれるなら。
──今度こそ、逃げたくない。