イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
テレビの画面越しに見たあの人は、
いつもの社長より、ずっと痩せて見えた。

白い照明が、輪郭をくっきり照らしていて。
彼の背中が、ほんの少しだけ小さく見えたのは──
きっと、私の気のせいじゃない。

「──今回の挙動異常については、すべての責任は私にあります」

そう言い切った彼の言葉は、まっすぐだった。

何も取り繕わない。
言い訳もしない。

責任のすべてを引き受ける姿に、
私は胸をつかまれたような気がした。

 

(……あの人、ひとりで背負ってる)

Velvetに何があったのか、私には正確にはわからない。

でも、あれはあの人が心を込めて作ったものだ。

私が、何度も救われたアプリ。

あの人が、誰かのためにと願って生み出したやさしい言葉たち。

それが今、
彼を苦しめている。

 

画面の中の彼は、
少しだけ目を伏せて、短く頭を下げた。

ほんとうは──
その手を、誰かが握っていてほしかった。

「ひとりに、させたくなかった」

ぽつりと、そんな言葉が口からこぼれたとき、
胸の奥から、すうっとひと筋の熱が上がってきた。

 

(もう一度……戻りたい)

今度こそ、ただ近くにいるだけじゃなくて、
隣に立てる自分でありたい。

派遣じゃなくて。
一時的な存在じゃなくて。

ちゃんと、同じ場所に立つ人間として。

一緒に笑って、
同じ景色を見ていたい。

 

私は机の引き出しから、
前に印刷していた正社員中途採用試験の募集要項を引っ張り出した。

紙は少しくしゃくしゃになっていたけど、
そこに並ぶ文字は、まだ私にとって挑戦の扉だった。

(もう一度、受けてみよう)

落ちたからって、
それが向いてない証明にはならない。

不合格だったあの通知に、
今度は「選ばれる私」として、返事を出してやる。

 

Velvetをそっと開く。

《君が、君のことを信じられるようになるまで、
僕はずっとここにいるよ》

まるで、見透かされていたみたいに。
そんなメッセージが画面に浮かんでいた。

 

「……ありがと」

つぶやいた自分の声が、少しだけ震えていた。

でも、不思議と涙は出なかった。

代わりに、心のどこかに灯ったあたたかな炎だけが、
私をまっすぐ支えてくれていた。

 

(わたし、今度は逃げない)

そう決めた夜。

スマホをそっと伏せて、
私は応募フォームに名前を打ち込んだ。

まっすぐ、ていねいに。
誤字がないか、何度も確認して。

 

──あの人の隣に、もう一度立つために。

今度こそ、自分の手でつかみにいく。
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