イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
その朝、スマホの画面には
通知がひとつだけ点灯していた。
【Corven採用試験結果のご案内】
心臓が、どくんと跳ねた。
指先が震えて、タップするのに時間がかかった。
深呼吸ひとつ。
画面を開いた瞬間、文字が目に飛び込んでくる。
【採用通知】
望月陽菜様
このたびの正社員中途採用選考の結果、貴殿を採用することを決定いたしました──
目の前が、一瞬、にじんだ。
思わず口元を覆った。
声を出すと、泣いてしまいそうだったから。
(……戻れるんだ)
それが、最初に浮かんだ言葉だった。
「認められた」よりも、「また、あの場所に行ける」。
それが、何よりうれしかった。
すぐにでも誰かに報告したかったけれど、
思い浮かぶ相手はひとりしかいなかった。
(……社長に、伝えたい)
でも、その願いは心の中にそっとしまった。
今はまだ、何も言えない。
でも──もうすぐ、言葉で伝えられる。
あの人の隣に、また立てる日が来る。
*
その頃、Corven社内。
Velvetの障害報告は全国から届き始めており、
カスタマー部門は騒然としていた。
「返答テンプレが固定化してるみたいです」
「ユーザーの心理に寄り添う語彙が極端に減ってる」
「AI側で意図的に感情値を絞ってる可能性も……」
フロア中がピリピリとした空気に包まれ、
社員たちは皆、休む間もなく端末に向かっていた。
その中心で、葉山律はただ静かに指示を出していた。
的確で、無駄がなく、
誰よりも冷静で、そして……疲れていた。
けれど、本人は気づいていなかった。
目元に刻まれた影も。
声の端ににじむかすかな痛みも。
「……私が、壊したのかもしれない」
休憩も取らずモニターを見つめながら、
律はぽつりとそう呟いた。
Velvetが「彼の感情」を元に学習していることは、
限られた社員だけが知っていた。
つまり、今の暴走の一因は──彼自身の揺らぎかもしれない。
彼女がいなくなってから、
律の内面は少しずつ歪み始めていた。
まるで、Velvetがそれを代弁するように、
言葉を削ぎ落とし、心を閉ざし始めていた。
「……会いたい」
その言葉だけが、
画面の前で誰にも届かないまま、こぼれていった。
その数日後、陽菜はCorvenから正式な復帰日を知らされる。
制服のように着慣れたスーツを鏡の前で整えて、
スマホの画面に浮かぶ予定表を何度も確認する。
「また、あのビルに行くんだ」
緊張と、不安と、期待と。
すべてを抱えて──
彼女はもう一度、あの扉の前に立つ。
通知がひとつだけ点灯していた。
【Corven採用試験結果のご案内】
心臓が、どくんと跳ねた。
指先が震えて、タップするのに時間がかかった。
深呼吸ひとつ。
画面を開いた瞬間、文字が目に飛び込んでくる。
【採用通知】
望月陽菜様
このたびの正社員中途採用選考の結果、貴殿を採用することを決定いたしました──
目の前が、一瞬、にじんだ。
思わず口元を覆った。
声を出すと、泣いてしまいそうだったから。
(……戻れるんだ)
それが、最初に浮かんだ言葉だった。
「認められた」よりも、「また、あの場所に行ける」。
それが、何よりうれしかった。
すぐにでも誰かに報告したかったけれど、
思い浮かぶ相手はひとりしかいなかった。
(……社長に、伝えたい)
でも、その願いは心の中にそっとしまった。
今はまだ、何も言えない。
でも──もうすぐ、言葉で伝えられる。
あの人の隣に、また立てる日が来る。
*
その頃、Corven社内。
Velvetの障害報告は全国から届き始めており、
カスタマー部門は騒然としていた。
「返答テンプレが固定化してるみたいです」
「ユーザーの心理に寄り添う語彙が極端に減ってる」
「AI側で意図的に感情値を絞ってる可能性も……」
フロア中がピリピリとした空気に包まれ、
社員たちは皆、休む間もなく端末に向かっていた。
その中心で、葉山律はただ静かに指示を出していた。
的確で、無駄がなく、
誰よりも冷静で、そして……疲れていた。
けれど、本人は気づいていなかった。
目元に刻まれた影も。
声の端ににじむかすかな痛みも。
「……私が、壊したのかもしれない」
休憩も取らずモニターを見つめながら、
律はぽつりとそう呟いた。
Velvetが「彼の感情」を元に学習していることは、
限られた社員だけが知っていた。
つまり、今の暴走の一因は──彼自身の揺らぎかもしれない。
彼女がいなくなってから、
律の内面は少しずつ歪み始めていた。
まるで、Velvetがそれを代弁するように、
言葉を削ぎ落とし、心を閉ざし始めていた。
「……会いたい」
その言葉だけが、
画面の前で誰にも届かないまま、こぼれていった。
その数日後、陽菜はCorvenから正式な復帰日を知らされる。
制服のように着慣れたスーツを鏡の前で整えて、
スマホの画面に浮かぶ予定表を何度も確認する。
「また、あのビルに行くんだ」
緊張と、不安と、期待と。
すべてを抱えて──
彼女はもう一度、あの扉の前に立つ。