イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―

第8話 すれ違うたびに、好きになる

週明けの朝、社内は騒然としていた。

Velvetの障害は、週末を越えてもなお続いていて、
全国からの問い合わせ数はうなぎのぼり。

「このままじゃ、ユーザー離脱が加速します」
「一次対応のマニュアル、もう一段階アップデートを」
「カスタマーから返答が冷たすぎるってフィードバックが続いてます!」

早口で飛び交う言葉たち。

その隙間に、自分の呼吸の音が紛れ込んでいく。

(……戻ってきたんだ)

再スタートして、もう一週間が経つ。
でも、まだ居場所と呼べるほどにはなっていない。

けれど、それでも──
「ここにいたい」と思う気持ちは、本物だった。

 

社長の姿を見かけることはあっても、
彼と直接話す機会は、あれ以来なかった。

例のカフェで、水野さんと向き合っていたあの日。

社長が無言で背を向けていったあの瞬間が、
今も胸に引っかかっている。

(きっと、誤解されたままなんだ)

何もやましいことはしていない。
けれど、たぶん彼は傷ついた。

──私が、誰かに手を取られている姿を、
目の前で見せてしまったから。

 

(話せるなら、ちゃんと伝えたいのに)

何も隠したくない。
今はもう、逃げたくなんてない。

それでも、彼は私を避けているように見えた。

エレベーターで鉢合わせても、目が合う前に振り返られる。
廊下ですれ違っても、別の話題を口にする誰かの影に消える。

優しいけど、触れさせてはくれない。
そんな壁のようなものが、目に見えないところに立っている気がした。

 

「望月さん、これお願いします」

上司から回された報告資料の作成。

内容を確認して、指先を動かす。

その中に、Velvetのログ関連資料があった。

日別ログ数の推移、障害発生と時間帯の相関性──
そして、そのグラフの一部が、妙に波打っていた。

「……この日って……」

私が社長と会わなくなった、あの日。

ログの言語感情値が、がくんと下がっていた。

あの人の想いを元に作られたAIが、
まるで、誰かの「心の揺れ」に呼応しているように。

(Velvetは、社長の心を映してる)

あの日から──社長は、どこか変わった。

口数が減って、
言葉の奥にある温度も、少しずつ変わってしまった気がする。

 

「社長のこと、ずっと見てるのに」

どうして、近づこうとすると、遠ざかっていくんだろう。

どうして、あの人のまなざしが、私を避けるんだろう。

胸がぎゅっと苦しくなる。

 

──でも。

「私は、支えるって決めたんだから」

再びこの場所に戻ってきた意味は、
きっと彼の隣に立つためだった。

派遣のときとは違う。

今の私は、ここで働く理由も、想いも、全部持っている。

だから、逃げない。

たとえすれ違っても、
この想いまで、見失わないように。
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