イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
「望月さん、今日の昼、少しだけいいですか?」
水野さんにそう声をかけられたのは、
午前中の業務がひと段落したタイミングだった。
「はい、大丈夫です」
自然と答えていた。
あの日の告白以来も水野さんは変わらず、
私に対して一定の距離を保ちながら接してくれていた。
その絶妙なやさしさが、今の私にはありがたかった。
昼休み、社内ビルのカフェテリア。
窓際の席からは、
遠くに海が見える。
平日の昼下がりにしては空いていて、
ふたりで話すにはちょうどいい空気だった。
「最近、どうですか? 業務のほう」
「まだまだ慣れないことばかりですけど、やりがいはあります。
正社員として戻ってきて……本当によかったと思ってます」
「それ、聞けて安心しました」
水野さんは、目元だけで小さく笑った。
「……あのときの望月さんは、
『自分なんて』って、自分を一番信じてなかった。
でも今は、ちゃんと前を向いてる」
「……そんなふうに、見えますか?」
「ええ。すごく」
その言葉が、どこかくすぐったくて、
私は思わず笑ってしまった。
(あれ……私、今、笑ってる)
仕事中には忘れていた感覚。
どこかほっとして、
少しだけ心がほどけたような時間。
けれど──その笑顔を、
誰かに見られていることを、私は知らなかった。
*
【葉山律 side】
昼休みの終わり、俺はエレベーターホールを抜け、
何気なくカフェテリアの前を通りかかった。
いつもなら気にも留めないはずのその光景に、
ふと、足が止まった。
ガラスの向こう、陽菜が笑っていた。
水野と、向かい合って座って。
真剣に何かを話して、
そのあと、ふっと口元を綻ばせて──
その笑顔が、自分には向けられたことのないもののように思えた。
(……なんで、今、こんな気持ちになるんだ)
社長という立場なら、
私情を挟むべきじゃない。
わかってる。
でも、それでも。
(君のそんな顔を、誰かに見せないでほしかった)
それが、最初に浮かんだ本音だった。
自分には、もう笑いかけてくれないのに。
自分の前では、どこか気を遣った目をするのに。
どうして、水野にはあんな顔を見せるんだ。
心がざわついて、
呼吸のリズムまで狂いそうになる。
俺は、何も言わずに踵を返し、
そのまま足早に廊下を歩き出した。
けれど、心の奥で鳴っていた音だけは、止まらなかった。
それが嫉妬だと気づいたとき、
自分自身がいちばん驚いていた。
水野さんにそう声をかけられたのは、
午前中の業務がひと段落したタイミングだった。
「はい、大丈夫です」
自然と答えていた。
あの日の告白以来も水野さんは変わらず、
私に対して一定の距離を保ちながら接してくれていた。
その絶妙なやさしさが、今の私にはありがたかった。
昼休み、社内ビルのカフェテリア。
窓際の席からは、
遠くに海が見える。
平日の昼下がりにしては空いていて、
ふたりで話すにはちょうどいい空気だった。
「最近、どうですか? 業務のほう」
「まだまだ慣れないことばかりですけど、やりがいはあります。
正社員として戻ってきて……本当によかったと思ってます」
「それ、聞けて安心しました」
水野さんは、目元だけで小さく笑った。
「……あのときの望月さんは、
『自分なんて』って、自分を一番信じてなかった。
でも今は、ちゃんと前を向いてる」
「……そんなふうに、見えますか?」
「ええ。すごく」
その言葉が、どこかくすぐったくて、
私は思わず笑ってしまった。
(あれ……私、今、笑ってる)
仕事中には忘れていた感覚。
どこかほっとして、
少しだけ心がほどけたような時間。
けれど──その笑顔を、
誰かに見られていることを、私は知らなかった。
*
【葉山律 side】
昼休みの終わり、俺はエレベーターホールを抜け、
何気なくカフェテリアの前を通りかかった。
いつもなら気にも留めないはずのその光景に、
ふと、足が止まった。
ガラスの向こう、陽菜が笑っていた。
水野と、向かい合って座って。
真剣に何かを話して、
そのあと、ふっと口元を綻ばせて──
その笑顔が、自分には向けられたことのないもののように思えた。
(……なんで、今、こんな気持ちになるんだ)
社長という立場なら、
私情を挟むべきじゃない。
わかってる。
でも、それでも。
(君のそんな顔を、誰かに見せないでほしかった)
それが、最初に浮かんだ本音だった。
自分には、もう笑いかけてくれないのに。
自分の前では、どこか気を遣った目をするのに。
どうして、水野にはあんな顔を見せるんだ。
心がざわついて、
呼吸のリズムまで狂いそうになる。
俺は、何も言わずに踵を返し、
そのまま足早に廊下を歩き出した。
けれど、心の奥で鳴っていた音だけは、止まらなかった。
それが嫉妬だと気づいたとき、
自分自身がいちばん驚いていた。