イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
(ここだけは、手を抜かない)
資料のまとめ直しを頼まれたとき、
心の中で、そう決めた。
ただ指示されたからじゃない。
「正社員として戻ってきた意味」を、自分自身に証明したかった。
画面の向こうで、次々に開く数値データと格闘しながら、
私は資料の精度を何度も確認した。
喉が渇いていることにも気づかず、
気づけば、外はすっかり夕暮れだった。
「望月さん、まだやってたの?」
通りがかりの野崎さんにそう声をかけられて、
ようやく時計に目をやった。
「すみません……あと少しでまとまりそうで」
「本気だねぇ。ま、無理しすぎないようにね」
そう言って笑いながら、先輩は帰っていった。
私はひとり残って、再びモニターに向き直った。
──そう、その姿を、社長は偶然見ていた。
*
【葉山律 side】
別フロアの会議を終えた帰り道。
社内を横切る通路から、ふと開けたガラス越しのワークスペースに目を向けたとき。
そこに彼女の姿があった。
薄明かりの下で、ひとりきり。
小さく眉を寄せ、黙々と何かに向かっている。
誰に頼まれたわけでもない。
誰に褒められることも期待せず。
ただ、まっすぐ。
その横顔に、思わず足が止まった。
(……あの頃の君じゃない)
最初に出会った頃の彼女は、
いつもどこか自信がなさそうで、
必要以上に恐縮していた。
だけど今は、違う。
指先に宿る意思も、
視線の先にあるものも、
確かに何かをつかもうとしている。
それが、何より美しかった。
「……支えるって、そういうことか」
小さく、呟いた言葉は誰にも届かない。
でも、心のどこかで確かに響いていた。
誰かに必要とされることだけが、強さじゃない。
誰かの隣に立つために、自分で選んで努力し続ける。
──彼女は、それを実行していた。
(なのに、俺は……)
少しのすれ違いで、勝手に距離を取って。
言葉も投げず、ただ背を向けて。
彼女がずっと、自分を見ていてくれたことにも、
気づこうとしなかった。
あの目を、あの声を、
ちゃんと受け止めてこなかった。
(君の気持ちに、俺は何ひとつ応えていない)
なのに、嫉妬していた。
笑顔を、手を、会話を──自分のものじゃないと気づいた瞬間、
あんなにも心が揺れたのに。
それなのに、何も伝えなかった。
胸の奥に、かすかに痛みが灯る。
まるで、後悔という名の警鐘だった。
資料のまとめ直しを頼まれたとき、
心の中で、そう決めた。
ただ指示されたからじゃない。
「正社員として戻ってきた意味」を、自分自身に証明したかった。
画面の向こうで、次々に開く数値データと格闘しながら、
私は資料の精度を何度も確認した。
喉が渇いていることにも気づかず、
気づけば、外はすっかり夕暮れだった。
「望月さん、まだやってたの?」
通りがかりの野崎さんにそう声をかけられて、
ようやく時計に目をやった。
「すみません……あと少しでまとまりそうで」
「本気だねぇ。ま、無理しすぎないようにね」
そう言って笑いながら、先輩は帰っていった。
私はひとり残って、再びモニターに向き直った。
──そう、その姿を、社長は偶然見ていた。
*
【葉山律 side】
別フロアの会議を終えた帰り道。
社内を横切る通路から、ふと開けたガラス越しのワークスペースに目を向けたとき。
そこに彼女の姿があった。
薄明かりの下で、ひとりきり。
小さく眉を寄せ、黙々と何かに向かっている。
誰に頼まれたわけでもない。
誰に褒められることも期待せず。
ただ、まっすぐ。
その横顔に、思わず足が止まった。
(……あの頃の君じゃない)
最初に出会った頃の彼女は、
いつもどこか自信がなさそうで、
必要以上に恐縮していた。
だけど今は、違う。
指先に宿る意思も、
視線の先にあるものも、
確かに何かをつかもうとしている。
それが、何より美しかった。
「……支えるって、そういうことか」
小さく、呟いた言葉は誰にも届かない。
でも、心のどこかで確かに響いていた。
誰かに必要とされることだけが、強さじゃない。
誰かの隣に立つために、自分で選んで努力し続ける。
──彼女は、それを実行していた。
(なのに、俺は……)
少しのすれ違いで、勝手に距離を取って。
言葉も投げず、ただ背を向けて。
彼女がずっと、自分を見ていてくれたことにも、
気づこうとしなかった。
あの目を、あの声を、
ちゃんと受け止めてこなかった。
(君の気持ちに、俺は何ひとつ応えていない)
なのに、嫉妬していた。
笑顔を、手を、会話を──自分のものじゃないと気づいた瞬間、
あんなにも心が揺れたのに。
それなのに、何も伝えなかった。
胸の奥に、かすかに痛みが灯る。
まるで、後悔という名の警鐘だった。