イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
今日は、気合いを入れたくて。
クローゼットの奥にしまっていた、
少しヒールの高いパンプスを履いて出社した。
いつもより背筋が伸びて、
足取りもどこか意識してしまう。
(ちゃんと話そう。今日こそ)
逃げないって決めた。
あの人の目を、ちゃんと見て。
今の自分の気持ちを、まっすぐに伝えるんだ。
それだけで、朝から心臓がずっと落ち着かなかった。
メールの文字が頭に入ってこなくて、
何度も読み直す。
社内の足音、キーボードの音、会話の響き──
すべてが遠くで鳴っているように感じた。
社内のグループウェアを開き、スケジュール機能で「葉山律」の予定をこっそり確認する。
会議と面談でびっしり埋まったその予定表の中に、午後1時から15分だけ、空白の時間があった。
その短い隙間に、話しかけられたら──。
タイミングを逃さなければ、きっと……。
画面を閉じて、手をぎゅっと握った。
決めた。今日は、ちゃんと伝える。
そして──昼休み直後。
ちょうど水野さんに書類のことで呼び止められた、そのときだった。
「……あ、気をつけ──!」
慣れないヒールで立ち止まった瞬間、
バランスを崩して足首がぐらりと傾いた。
次の瞬間、腕を引かれて、
ふわっと胸元に引き寄せられる。
水野さんだった。
「大丈夫……ですか?」
顔が近い。
目の前にあるのは、
真剣に私を見つめる瞳と、
支えてくれているあたたかい腕。
(……まるで、抱きしめられてるみたい)
一瞬、時間が止まったような気がした。
──そのときだった。
「望月さん」
背後から聞こえた声。
振り向くと、そこには社長が立っていた。
片手に資料を持ったまま。
その手は、ぎゅっと強く握られていて、
その横顔は、ひどく静かで──でも、どこか鋭かった。
「社長……?」
私が名前を呼ぶ間もなく、
彼はまっすぐ歩いてきて、私の腕を掴んだ。
「来て」
「えっ、ちょ、ちょっと待って──」
抵抗する間もなく、私は引っ張られるようにして歩かされた。
水野さんの声が、背中に遠く響く。
でも、私は振り返ることができなかった。
社内の奥──
鍵のかかる会議室。
社長は勢いよくドアを閉め、私の手を離した。
「……なにしてた」
低く落ち着いた声。
でも、その声の奥に、何かが激しく燃えているのを感じた。
「え、あの、転けそうになって──水野さんが……!」
うまく言葉が出てこない。
心臓の鼓動が速すぎて、息が詰まる。
社長は私をじっと見ていた。
まるで何かを押し殺すように。
「……俺の目の前で、ああやって誰かに触れられるの、もう、見ていられない」
「え……?」
「ずっと我慢してた。
社長として、上司として、言うべきじゃないって」
一歩、距離が縮まる。
「でも、もう限界だ」
私は、何も言えなかった。
目の前にいるのは、
いつものクールで「恋愛上級者」な社長じゃない。
揺れていて、苦しそうで──
それでもまっすぐに、私を見ている。
「好きだよ。……ずっと、見てた」
それは、まぎれもなく
「葉山律」というひとりの人間としての声だった。
何かが崩れる音がした。
私の中にあった壁も、
彼が背負ってきた立場も、
全部、いま──ただの想いに溶けていく。
クローゼットの奥にしまっていた、
少しヒールの高いパンプスを履いて出社した。
いつもより背筋が伸びて、
足取りもどこか意識してしまう。
(ちゃんと話そう。今日こそ)
逃げないって決めた。
あの人の目を、ちゃんと見て。
今の自分の気持ちを、まっすぐに伝えるんだ。
それだけで、朝から心臓がずっと落ち着かなかった。
メールの文字が頭に入ってこなくて、
何度も読み直す。
社内の足音、キーボードの音、会話の響き──
すべてが遠くで鳴っているように感じた。
社内のグループウェアを開き、スケジュール機能で「葉山律」の予定をこっそり確認する。
会議と面談でびっしり埋まったその予定表の中に、午後1時から15分だけ、空白の時間があった。
その短い隙間に、話しかけられたら──。
タイミングを逃さなければ、きっと……。
画面を閉じて、手をぎゅっと握った。
決めた。今日は、ちゃんと伝える。
そして──昼休み直後。
ちょうど水野さんに書類のことで呼び止められた、そのときだった。
「……あ、気をつけ──!」
慣れないヒールで立ち止まった瞬間、
バランスを崩して足首がぐらりと傾いた。
次の瞬間、腕を引かれて、
ふわっと胸元に引き寄せられる。
水野さんだった。
「大丈夫……ですか?」
顔が近い。
目の前にあるのは、
真剣に私を見つめる瞳と、
支えてくれているあたたかい腕。
(……まるで、抱きしめられてるみたい)
一瞬、時間が止まったような気がした。
──そのときだった。
「望月さん」
背後から聞こえた声。
振り向くと、そこには社長が立っていた。
片手に資料を持ったまま。
その手は、ぎゅっと強く握られていて、
その横顔は、ひどく静かで──でも、どこか鋭かった。
「社長……?」
私が名前を呼ぶ間もなく、
彼はまっすぐ歩いてきて、私の腕を掴んだ。
「来て」
「えっ、ちょ、ちょっと待って──」
抵抗する間もなく、私は引っ張られるようにして歩かされた。
水野さんの声が、背中に遠く響く。
でも、私は振り返ることができなかった。
社内の奥──
鍵のかかる会議室。
社長は勢いよくドアを閉め、私の手を離した。
「……なにしてた」
低く落ち着いた声。
でも、その声の奥に、何かが激しく燃えているのを感じた。
「え、あの、転けそうになって──水野さんが……!」
うまく言葉が出てこない。
心臓の鼓動が速すぎて、息が詰まる。
社長は私をじっと見ていた。
まるで何かを押し殺すように。
「……俺の目の前で、ああやって誰かに触れられるの、もう、見ていられない」
「え……?」
「ずっと我慢してた。
社長として、上司として、言うべきじゃないって」
一歩、距離が縮まる。
「でも、もう限界だ」
私は、何も言えなかった。
目の前にいるのは、
いつものクールで「恋愛上級者」な社長じゃない。
揺れていて、苦しそうで──
それでもまっすぐに、私を見ている。
「好きだよ。……ずっと、見てた」
それは、まぎれもなく
「葉山律」というひとりの人間としての声だった。
何かが崩れる音がした。
私の中にあった壁も、
彼が背負ってきた立場も、
全部、いま──ただの想いに溶けていく。