イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―

第9話 この想いをあなたに伝えたい

「好きだよ。……ずっと、見てた」

社長の言葉が、静かな会議室に落ちた。

息が止まった。

さっきまでの怒りも、苛立ちも、
いま目の前にいるのは、
ただひとりの男性として──わたしを見てくれている人。

その目がまっすぐで、
まるで、私の奥の奥まで全部見透かしているみたいで、
胸の奥が熱くなって、何かがあふれそうだった。

「……わたしも……」

かすれそうな声で、それでも必死に言葉を出す。

「わたしも、ずっと……社長のことが、好きです」

その瞬間、社長の瞳がゆっくり細められる。

そして、迷いも遠慮もなにもなく、
彼は私を抱きしめた。

「やっと聞けた」

その低く甘い声が、耳の奥を震わせる。

「どれだけこの言葉を待ってたか……君にはわからない」

ぐいっと引き寄せられて、
私は社長の胸元にぎゅっと押しつけられた。

香水じゃない、
社長の体温とシャツのにおい。

それだけで、涙が出そうになるほど、
安心した。

「……じゃあ、もう迷うな」

顔をあげさせられて、そのまま、唇が重なった。

熱くて、やさしくて、でもどこか必死なキスだった。

まるで、失ってしまいそうなものを確かめるような、そんな熱。

私の腰に回された手が、
迷いなく、でもそっと強く抱きしめてくる。

「こんなに好きになるなんて思ってなかった」

「……わたしも」

言葉の隙間に、またキス。
ひとつ、またひとつ。

今度は深く、
舌先が触れ合って、体の芯まで熱くなる。

彼の指が頬をなぞり、首筋に沿って撫でてくる。

細い吐息が混じり、息を合わせながら、
ふたりの熱が高まっていくのがわかった。

「……もう、他の誰にも触らせたくない」

その囁きに、胸がきゅうっと締めつけられる。

社長が私を見つめる。

「ここじゃ、足りない」

その言葉に、どきりとした。

次の瞬間、手を引かれ、
ビルのエントランスを抜けて、外へ。

黒塗りの車のドアが開き、
そのまま助手席に乗せられる。

ドアが閉まり、静かな密室に変わる。

社長はハンドルに手を添えたまま、
もう片方の手で、私の手をぎゅっと握った。

「うちに来て。……断られても連れてくけど。君の仕事は全部キャンセルだ」

「……はい」

小さくうなずくと、
社長はほんの少し口元をゆるめて、エンジンをかけた。

その笑みに、わたしの心はすっかり奪われていた。

ブレーキを外す音とともに、
わたしの人生が、少しだけ動き出した気がした。
 

***

タワーマンションの一室。

高層階から見下ろす夜景は、まるで宝石を散りばめたみたいにきらきらと輝いていて、
その光が窓越しに部屋の中をやさしく照らしていた。

彼の部屋には、洗練されたインテリアが並び、どこを見ても無駄がない。

机の上には各国の新聞や資料が丁寧に重ねられ、生活感よりも知性を感じさせる空間だった。

シャワーを借りて出てくると、バスローブの裾を直しながらリビングに向かう。

リモートワークを終えた社長が、ゆっくりと立ち上がった。

「……緊張してる?」

「……少し」

「大丈夫。絶対に、乱暴なことはしない。
君の気持ちが、ちゃんと乗ってくるまで……待つから」

低くてやさしいその声に、心臓が跳ねた。

彼がそっと手を伸ばし、頬を包むように触れた瞬間──
胸の奥にずっとしまい込んでいた不安や迷いが、ふっと消えていく気がした。

そして、再び唇が重なる。

さっきよりも深く、甘く、呼吸ができなくなるほどに。

 

「……触れても、いい?」

耳元に囁かれた声が、背筋を震わせた。

答える代わりに、私は目を閉じて、静かにうなずいた。

 

彼の手が、バスローブの帯をほどき、
そのままゆっくりと、肩をすべらせていく。

露わになった肌に、彼の視線がそっと落ちる。

その視線だけで、まるで触れられたような熱が灯る。

「……きれいだよ」

その一言が、身体の奥まで溶かしていく。

 

彼の手が、ゆっくりと私の髪を撫で、
首筋に唇が降りてきたとき、
全身に快感が走った。

優しさと情熱が入り混じった口づけは、
どこまでも丁寧で、どこまでも甘い。

指先が、背中をなぞり、
くちびるが、鎖骨を吸うように這っていく。

 

ベッドに移動してからも、
彼は何度も私の名前を呼び、
まるで祈るように、愛を重ねてくれた。

「……好きだよ、陽菜」

何度も、何度も。

その言葉に、涙がにじんだ。

ずっと欲しかった言葉。
誰よりも、彼の声で聞きたかった言葉だった。

 

指先の温度が、唇の熱が、
少しずつ深く身体に溶け込んでいく。

鼓動の重なり、息遣い、指の絡まり。

ひとつになるたび、
私は確かに「愛されている」と感じていた。

 

夜が明けるころ、
私は彼の胸のなかで静かにまどろんでいた。

「……絶対に、もう離さない」

ソファにかけた毛布を直しながら、
彼がぽつりとそう囁いた声は、
夜明けよりもあたたかくて、やさしかった。
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