イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
目を覚ましたとき、
目の前にあったのは、社長の寝息とあたたかな背中だった。

「……夢じゃないんだ」

思わず呟いたその声に、彼がふっと目を開ける。

「おはよう。……よく眠れた?」

「はい」

微笑み合う時間が、こんなにも甘いものだったなんて、知らなかった。

昨夜のことを思い出すだけで、胸がじんわり熱くなる。

この人の隣にいる安心感も、体温も、
どれも全部、本当にあったものなんだ──と、思える。

 

「今日から、俺たち『そういう関係』ってことでいい?」

照れくさそうに眉を寄せて聞いてくる社長が、
少しだけ幼く見えて、私はうなずいた。

「……はい。よろしくお願いします」

 


 

朝食を食べ終えたころ、
社長のスマホに通知が次々と入ってきた。

「……ん?」

小さく唸る社長に、私はおそるおそる尋ねた。

「何か、ありましたか?」

「いや……逆。Velvet、急に持ち直してきたみたいだ」

 

アプリの不具合が完全に復旧したらしく、
SNSでは「Velvet復活」のハッシュタグがトレンド入りしていた。

「やっぱり、あれが大きかったのかな……」

社長が指で画面をスクロールさせながらつぶやく。

数日前、公式が開発者の想いを発信するキャンペーンとして、AI開発に込めた裏話や初期コンセプトを公開した。

 

「心に寄り添うAI」──
一度は不信感をもたれたVelvetが、
いま再び「誰かの心を支える存在」として、注目を集めはじめていた。

 

「ユーザー数、V字回復してます。
『最初より言葉があたたかくなった』って声も増えてる」

「……ほんとによかったですね」

「うん……」
社長は、ほっとしたようにコーヒーをひと口飲んだ。

でもその口元は、どこかほころんでいた。

 

「君がいたから、俺は腐らずに済んだ。
君がいなければ、たぶん俺、Velvetからも全部手を引こうとしてた」

「……そんな……」

「ほんとだよ」

社長はそう言って、私の髪をそっと撫でた。

「君の一言が、Velvetの声を変えた」

 

あのアプリには、社長の「感情」が組み込まれている。

そしていま──
その声が、少しずつ、やさしくなっていくのは、
もしかしたら私の存在が、社長自身をやわらかくしているからなのかもしれない。

 

「これからは、そばにいてくれる?」

「……はい」

この人と生きていくことが、
誰かを救う言葉の一部になれるのなら──
私は喜んで、その隣に立ちたいと思った。
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