イケメンIT社長に求婚されました ―からだ目当て?……なのに、溺愛が止まりません!―
1年後。
真っ白なチャペルの扉が、静かに開いた。
ゲストの視線が一斉にこちらに注がれ、
カメラのフラッシュが、まばゆく弧を描く。
そのなかを、私は──望月陽菜は、ゆっくりと歩いていた。
純白のウェディングドレスに身を包み、ブーケを胸に抱きしめながら。
祭壇の奥。
ライトに照らされた彼──律さんが、まっすぐにわたしを見つめていた。
誰よりもやさしく、誰よりも確かに。
(もう、迷わない)
心の奥で、そう思えた。
*
披露宴会場では、笑顔が咲いていた。
仲のいい同僚たち、親族、関係者。
そして、海外からのゲストのひとり──エリザベス・ウィンザーもそこにいた。
一瞬、胸がきゅっとなった。
あの美しい彼女が、律さんの隣に立っていた記憶が、
ふと頭をよぎったからだ。
けれど──その隣には、もうひとりの女性がいた。
背の高い、彫りの深い、どこか凛とした雰囲気の女性。
黒いドレスに身を包み、エリザベスの手をそっと握っていた。
(え……?)
驚きに目を見張っていると、エリザベスがこちらへやってきた。
「モチズキさん。コンニチハ……!」
たどたどしいけれど、まっすぐな日本語。
笑顔で手を差し出してくれる彼女に、
わたしは反射的に「ありがとうございます」と返した。
「ワタシ……リツの、ともだち。ホント、シンユー。ネンカン、ナナネン?」
「七年……も?」
「ソウ。リツ、マジメ、カンペキ。デモ、レンアイ、ニブイ!」
わたしは思わず笑ってしまった。
それはもう、本当にその通りだったから。
隣の女性が彼女を見つめ、
小さく英語で囁くと、エリザベスは嬉しそうにうなずいた。
(あの人が、エリザベスさんの……恋人……)
その事実が、ふわりと胸に落ちた瞬間──
何かが解けたような気がした。
そのあと、律さんがそっと耳元でささやいてくれた。
「……彼女にとって、俺は最初から『恋愛対象』じゃなかった。だから、親友になれた」
「え……」
「言わなかったのは、なんとなく。
でも、君があんなに気にしてたなら……ごめん」
「……いいんです。今日知れて、よかった」
そう言って、わたしは笑った。
嫉妬していた自分さえ、今は懐かしい。
だって今、彼の隣にいるのは、
まぎれもなく──わたしなんだから。
*
式も、披露宴も、すべてが夢のように過ぎていった。
花の香り、拍手の音、笑い声、祝福の言葉。
そのどれもが、わたしにとって初めてで、まぶしくて──
だけど、ふしぎと不安はなかった。
だって、目を向ければそこに、律さんがいたから。
あの人が、ずっと私の手を握っていてくれたから。
夜。
チャペルにふたりきりで残ったとき、
白いライトに照らされたステンドグラスの前で、
彼がそっと私の手を取った。
「──改めて、誓うよ」
その声は、どこまでも静かで、まっすぐだった。
「どんなときも、君を一番に考える。君だけを愛する。 人生をかけて、守る」
その言葉に、胸の奥がじんと温かくなる。
ああ、ほんとうに結婚したんだ。
この人と、これからを生きていくんだ。
そう思った瞬間──
走馬灯のように、過去の記憶が胸をかけめぐった。
あの日、エレベーターで突然言われた「結婚しないか」というひとこと。
わけがわからなくて、戸惑って、
だけどその瞳があまりにも真剣で、
動けなくなった自分がいた。
入館証を首にぶらさげて歩いていた日々。
誰にも必要とされていないと思っていた、派遣社員としての毎日。
でも、社長──律さんは、そんな私を見ていてくれた。
「君じゃなきゃダメなんだ」
そう言ってくれたあの日。
涙が止まらなかった。
自信がなくて、何度も逃げたくなって、
何度も「私なんか」と言いそうになって。
でもそのたびに、彼はまっすぐに言葉を返してくれた。
「君は、俺の人生だ」と。
派遣契約が終わった日、
雨のなかを傘も差さずに走ったあの日も、
忘れられない。
「おつかれさま」
たったひとことに泣きそうになって、
それを隠すように背を向けて、走った自分。
あのときの私が、
今こうして、この場所に立っているなんて──
誰が想像できただろう。
Velvetを最初にインストールした日。
「理想の彼氏モード」にすがるようにして、
ひとりの夜をなんとか乗り越えていた日々。
その画面の向こうの声が、
まさか現実の彼と重なっていたなんて。
「あなたが、私の理想を超えた彼氏です」
そう言ってアプリを削除した日、
心の奥に残っていた孤独が、すうっと溶けていった。
今なら、わかる。
あの人は、最初から理想なんかじゃなかった。
私の欠けたところにそっと寄り添って、
そのすべてを抱きしめてくれた、現実だった。
──夢なんかじゃない。
ちゃんと息をしていて、悩んで、
でもその手で未来を選び取ろうとする人。
そんな彼の隣に立つことを、
私は今日、誓う。
「……はい。わたしも、誓います」
涙をこらえながら、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「どんなに不安になっても、逃げません。
あなたの隣で、生きていきます」
そして、ふたりは唇を重ねた。
拍手も、鐘の音もない。
ただ静かに──
けれど確かに、ふたりだけの誓いのキスが交わされた。
その瞬間、わたしは知った。
幸せって、こんなにもやさしくて、
こんなにも温かいものなんだって。
Velvetも、入館証も、派遣社員だった日々も、
あの日の涙も、孤独も、
すべてがこの場所にたどり着くための道だった。
もう、迷わない。
もう、理想の彼氏は必要ない。
だって、いま目の前にいるこの人こそが──
わたしのすべてだから。
真っ白なチャペルの扉が、静かに開いた。
ゲストの視線が一斉にこちらに注がれ、
カメラのフラッシュが、まばゆく弧を描く。
そのなかを、私は──望月陽菜は、ゆっくりと歩いていた。
純白のウェディングドレスに身を包み、ブーケを胸に抱きしめながら。
祭壇の奥。
ライトに照らされた彼──律さんが、まっすぐにわたしを見つめていた。
誰よりもやさしく、誰よりも確かに。
(もう、迷わない)
心の奥で、そう思えた。
*
披露宴会場では、笑顔が咲いていた。
仲のいい同僚たち、親族、関係者。
そして、海外からのゲストのひとり──エリザベス・ウィンザーもそこにいた。
一瞬、胸がきゅっとなった。
あの美しい彼女が、律さんの隣に立っていた記憶が、
ふと頭をよぎったからだ。
けれど──その隣には、もうひとりの女性がいた。
背の高い、彫りの深い、どこか凛とした雰囲気の女性。
黒いドレスに身を包み、エリザベスの手をそっと握っていた。
(え……?)
驚きに目を見張っていると、エリザベスがこちらへやってきた。
「モチズキさん。コンニチハ……!」
たどたどしいけれど、まっすぐな日本語。
笑顔で手を差し出してくれる彼女に、
わたしは反射的に「ありがとうございます」と返した。
「ワタシ……リツの、ともだち。ホント、シンユー。ネンカン、ナナネン?」
「七年……も?」
「ソウ。リツ、マジメ、カンペキ。デモ、レンアイ、ニブイ!」
わたしは思わず笑ってしまった。
それはもう、本当にその通りだったから。
隣の女性が彼女を見つめ、
小さく英語で囁くと、エリザベスは嬉しそうにうなずいた。
(あの人が、エリザベスさんの……恋人……)
その事実が、ふわりと胸に落ちた瞬間──
何かが解けたような気がした。
そのあと、律さんがそっと耳元でささやいてくれた。
「……彼女にとって、俺は最初から『恋愛対象』じゃなかった。だから、親友になれた」
「え……」
「言わなかったのは、なんとなく。
でも、君があんなに気にしてたなら……ごめん」
「……いいんです。今日知れて、よかった」
そう言って、わたしは笑った。
嫉妬していた自分さえ、今は懐かしい。
だって今、彼の隣にいるのは、
まぎれもなく──わたしなんだから。
*
式も、披露宴も、すべてが夢のように過ぎていった。
花の香り、拍手の音、笑い声、祝福の言葉。
そのどれもが、わたしにとって初めてで、まぶしくて──
だけど、ふしぎと不安はなかった。
だって、目を向ければそこに、律さんがいたから。
あの人が、ずっと私の手を握っていてくれたから。
夜。
チャペルにふたりきりで残ったとき、
白いライトに照らされたステンドグラスの前で、
彼がそっと私の手を取った。
「──改めて、誓うよ」
その声は、どこまでも静かで、まっすぐだった。
「どんなときも、君を一番に考える。君だけを愛する。 人生をかけて、守る」
その言葉に、胸の奥がじんと温かくなる。
ああ、ほんとうに結婚したんだ。
この人と、これからを生きていくんだ。
そう思った瞬間──
走馬灯のように、過去の記憶が胸をかけめぐった。
あの日、エレベーターで突然言われた「結婚しないか」というひとこと。
わけがわからなくて、戸惑って、
だけどその瞳があまりにも真剣で、
動けなくなった自分がいた。
入館証を首にぶらさげて歩いていた日々。
誰にも必要とされていないと思っていた、派遣社員としての毎日。
でも、社長──律さんは、そんな私を見ていてくれた。
「君じゃなきゃダメなんだ」
そう言ってくれたあの日。
涙が止まらなかった。
自信がなくて、何度も逃げたくなって、
何度も「私なんか」と言いそうになって。
でもそのたびに、彼はまっすぐに言葉を返してくれた。
「君は、俺の人生だ」と。
派遣契約が終わった日、
雨のなかを傘も差さずに走ったあの日も、
忘れられない。
「おつかれさま」
たったひとことに泣きそうになって、
それを隠すように背を向けて、走った自分。
あのときの私が、
今こうして、この場所に立っているなんて──
誰が想像できただろう。
Velvetを最初にインストールした日。
「理想の彼氏モード」にすがるようにして、
ひとりの夜をなんとか乗り越えていた日々。
その画面の向こうの声が、
まさか現実の彼と重なっていたなんて。
「あなたが、私の理想を超えた彼氏です」
そう言ってアプリを削除した日、
心の奥に残っていた孤独が、すうっと溶けていった。
今なら、わかる。
あの人は、最初から理想なんかじゃなかった。
私の欠けたところにそっと寄り添って、
そのすべてを抱きしめてくれた、現実だった。
──夢なんかじゃない。
ちゃんと息をしていて、悩んで、
でもその手で未来を選び取ろうとする人。
そんな彼の隣に立つことを、
私は今日、誓う。
「……はい。わたしも、誓います」
涙をこらえながら、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「どんなに不安になっても、逃げません。
あなたの隣で、生きていきます」
そして、ふたりは唇を重ねた。
拍手も、鐘の音もない。
ただ静かに──
けれど確かに、ふたりだけの誓いのキスが交わされた。
その瞬間、わたしは知った。
幸せって、こんなにもやさしくて、
こんなにも温かいものなんだって。
Velvetも、入館証も、派遣社員だった日々も、
あの日の涙も、孤独も、
すべてがこの場所にたどり着くための道だった。
もう、迷わない。
もう、理想の彼氏は必要ない。
だって、いま目の前にいるこの人こそが──
わたしのすべてだから。