酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
人気のない公園に、冷えた風が木々を揺らして通り抜ける。
砂場は誰も踏みしめた跡がなく、静寂だけが辺りを支配していた。

奈緒は、公園の端にある子供用ブランコに腰を下ろし、音もなく揺れていた。
夜空には雲が垂れこめ、星一つ見えない。

街灯だけが、煌々と足元を照らしている。
その光に浮かび上がる自分の影が、やけに小さく見えた。

「はぁ……」
大きくため息をついた。白い息が空に溶けていく。

毎日、防犯や詐欺、ネット犯罪、暴力事件──多様化する手口に追いつくように走り回り、
取材して、まとめて、記事にして、伝えて。
意味のあることをしているはずなのに。

社会の役に立っている。
読者の意識を変える力になる。
それは確かに自分の仕事に誇りを持てる瞬間のはずなのに。

「どうしてだろう……」

胸の奥が空っぽのまま、何も満たされない。

パトロール中の彼に取材をした、あの夏の日から。
取材相手に過ぎないはずだった。
記事が終われば、それで終わりのはずだった。

でも。

何をしていても、思い出してしまう。
どんなに忙しく働いていても、ふとした拍子に彼の姿が浮かぶ。
制服姿で、静かに話を聞いてくれたときの表情。
笑いながら後輩とやりとりしていた声。

連載を続ける限り、またいつか交番や警察署に行く限り、
あの人はきっと、私の頭から離れてくれない。

叶わないと知っているのに、忘れようとしても忘れられない。

冷えた指でブランコの鎖を握りしめながら、
奈緒は視線を地面に落とし、そっと目を閉じた。

心が、こんなにも誰かを欲しがるなんて──。
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