酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜

クリスマスの夜に、名前を呼べたなら

ビルの上のイルミネーションが瞬き、街にはクリスマスソングが流れていた。

新宿の繁華街。
カップルたちが笑い合い、手を繋いで歩いている。

奈緒は、マフラーを首元に巻き、吐いた息の白さを見つめながら歩いていた。
「よくここをパトロールしてたな……」
そんな独り言が口をついて出る。

横断歩道の向こう側。
制服を着た警察官が歩いてくるのに気づき、奈緒は思わず足を止めた。
その顔がはっきり見える距離になるまで、心臓が高鳴る。

——違った。
似ていたけれど、別人だった。

拍子抜けしたような安堵と、叶わない期待をした自分への恥ずかしさが混ざる。
奈緒はまた歩き出した。

カップルたちの笑い声。
お揃いのマフラー。
そっと重ねられた手。

奈緒の手は、指の先までかじかんで、ポケットの中でも寒さを感じる。
「……別に付き合ったわけでも、良い感じになったわけでもないのに」
心の中で呟いて、寂しさを笑ってごまかした。

人通りの少ない路地に入った頃、背後から声がかかった。

「お姉さん、可愛いっすね。うち女の子募集中なんですけど、どうですか?」

無視して早足で歩く。
それでも、足音が後ろからついてくる。

ちら、と後ろを振り返ると、見知らぬ男が数メートル後ろを歩いていた。

人気が徐々に消えていく道。
奈緒は立ち止まり、振り返って言った。

「ついてこないでください。興味ないんで」

男は、瞬間だけ立ち止まり、顔をしかめて言った。
「……ブス」

吐き捨てるように言い、男は踵を返して去っていった。

奈緒は誰もいなくなった路地に一人残され、マフラーを強く握りしめた。
冷たい風が吹き抜ける中、足元ばかりを見て歩いた。

街にはあふれるような幸せが灯っているのに。
自分の胸の中だけが、やけに冷たく、ひとりぼっちだった。
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