酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
奈緒は、プレゼン本番まであと三日というタイミングで、ついに徹夜を決行した。

リビングのテーブルの上には資料が山のように積まれ、ノートパソコンの画面にはスライドの編集画面が広がっている。

深夜二時を過ぎても集中力は切れなかった。

むしろ焦燥感が背中を押し、眠気はとうにどこかへ消えていた。

「この視点じゃ弱い……読者に響かない」
独りごとのように呟きながら、何度も構成を練り直す。

警察の仕事の意義、市民とどう関わるか、防犯の啓発をどう“自分の言葉”で伝えるか。

ソファに一瞬だけ身体を預け、深く息を吐く。
疲労で視界が滲む。
そんなとき、テーブルの端に置いてある名刺入れを手に取る。

中から取り出した一枚の名刺。
「警視庁新宿警察署 地域課 瀬戸拓真」

その名を目にするたび、胸が少し温かくなる。
「まだ、終わってない」
そう呟いて、またパソコンに向かった。

会社でも、隙間の時間があれば資料に目を通した。

エレベーターの待ち時間、コピー機の前、打ち合わせの開始前の数分。

集中してメモを取る奈緒の姿に、同僚たちは感心しながらも、少し心配そうに見つめていた。

通勤時間も無駄にはしなかった。
満員電車の中、片手でつり革を掴みながら、スマホで構成案をチェックしたり、取材メモを読み返したり。

駅のホームで風に吹かれながらも、イヤホンで録音した過去のインタビュー音声を聞いていた。

時間が惜しかった。
どんな細切れの瞬間も、プレゼンを磨き上げる材料に変えた。

夜、帰宅してからは、またあの名刺を見て心を落ち着けるのが習慣になっていた。

「もう一度……会えたら」
その思いを、紙の向こうにいる彼にそっと託すように。

疲れた心に差す、たった一筋の光。
それを頼りに、奈緒は走り続けていた。
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