酔って寝てたら保護されましたが、これが恋の始まりだなんて聞いてません〜警察官の甘やかな独占欲に包まれて〜
部屋に帰りついた奈緒は、コートも脱がずにそのままリビングの椅子に沈み込んだ。

部屋の中はしんと静まり返っていて、寒さがそのまま内側まで染み込んでくるようだった。

ふと目をやると、テーブルの隅に一枚の名刺が置かれている。

「瀬戸拓真」──見慣れたその名前に、胸がちくりと痛んだ。

奈緒はそれを手に取り、まるで壊れ物を扱うようにそっと指でなぞる。

細い指先が、何度もその名前の上を往復する。

くるくると角を触りながら、意味もなく名刺を回しては、ふっとため息を吐いた。

「いらないよね」

かすれた声が、静かな部屋の中に吸い込まれていく。

「もう会わないんだから。これで、けじめつけなきゃ」

自分に言い聞かせるように呟くと、名刺を握る手に力が入った。

少し躊躇してから、その手を伸ばして、ゴミ箱の中にぽとりと落とす。

小さな音がした。

それだけのことなのに、心が引き裂かれるように痛かった。

悔しさの波が引いたあとに襲ってきたのは、自分に対する怒りだった。

「なんで、私は……」

言葉にならない叫びが喉の奥で膨らみ、やりきれなさが爆発しそうになる。

奈緒は両手で頭をがしっと掴んだ。
ぐしゃぐしゃと髪を乱し、わざと指を絡めて引っ張る。

その痛みが、心の奥の苦しさを少しでも紛らわせてくれる気がした。

でも、痛みだけでは救えなかった。
何一つ、満たされなかった。
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