荒廃した世界で、君と非道を歩む
 まるで父親が自分の娘を見るような優しい視線。仏頂面で強面だというのに、今の志筑は殺人鬼だとは思わない年相応の青年に見えた。と、そこまで考えて父親にしては若すぎるし、殺人鬼が父親だなんてあまりにも現実離れした話だと頭の中で考えが消える。
 志筑は料理に口を付ける気がないらしい。このまま待っていても料理は冷めてしまうだけのため、蘭は目の前に置かれている素朴な炒飯にレンゲを差し込んだ。
 差し込んだレンゲを持ち上げ、そっと口に運ぶ。数回噛んで頭の中に感想が浮かぶ。
 味、薄。
 見た目、薄。
 具、少な。
 量、少な。
 何を思ったわけでもないが横目で店主を見れば、洗い物をしながらこちらを睨みつけていた。大方、蘭が何を考えているのか察しているのだろう。

 何、その態度。

 思ったことをすぐ口に出してはいけないと重々承知している。その上でふつふつと身体の何処かが沸騰しているような怒りが湧いた。
 志筑に視線を送れば、彼もまた店主に視線を移す。獣が獲物を捉えたような鋭い視線が店主を射抜いた。
 睨み返しているつもりはない志筑だが、彼と目が合うなり店主はきっぱりシンクの中に視線を落としてしまった。
 だからと言って悲しむわけでも残念に思うわけでもない。今見ているべき人物は初老の無愛想な店主ではなく、目の前で炒飯をゆっくり食べている蘭である。
 何とも言えない微妙な顔をして炒飯を食べる蘭は、次に箸を持って唐揚げに手を伸ばした。別料金で小さい割に、その量と見た目に反して料金が高い。薄々嫌な予感はしていたが、食べてみるとこれまた味が薄いし肉も硬い。
 これならば志筑の提案を飲んで大人しく他の店に行けばよかった。金は志筑が出していくれるのだから蘭が料金に対して何かを気にする必要はない。だが、大して美味しくもない料理に志筑が限りある金を使ってしまうのがもったいなく思うのだ。
 やっぱり、あの両親との思い出にろくなものなんて無かった。少しは昔のことを忘れて成長できるかと思ったが、今の蘭は昔の両親と過ごした幸せな日々に囚われているようだ。
 空になった皿を覗き込みながらぼんやりと考えてしまう。
 今続けている志筑との逃避行に終わりはあるのだろうか。それを見つけるために逃避行をするのだが、上手くいくとは到底思えない。
 まだ逃避行は始まったばかりだと言うのに、心の中で渦巻く嫌な予感が大きくなっていた。

「食ったか。ならもう出るか」

 店に入る前、自分で食べ終わったら早く出ようと言っていたことを思い出す。
 志筑がお代をテーブルに残し、蘭は志筑が伸ばした手を取って店を出る。静かな店内とは裏腹に、扉を開けて出た外は耳を塞ぎたくなるほど騒がしかった。
 しかめっ面の志筑と耳を塞ぐ蘭。道行く人々は、そんな二人のことを気にも留めない。
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