荒廃した世界で、君と非道を歩む

星空と海

 まるで異世界にいるみたいだ。
 かつて両親と訪れたこの繁華街に、今は志筑という出会ったばかりの殺人鬼といる。死に場所を求めて二人は逃避行を始めたが、終着地点は未だ見つかっていない。

(お父さんとお母さん、心配してるかなぁ)

 そんな淡い期待も胸にはあったが、あの両親のことだから逆にいなくなってくれて清々した、とでも思っているだろう。
 すでに家を出てからかなりの時間が経った。本気で愛しているのなら今頃探し回ってくれている頃だ。それが無いのは、二人にとって蘭が娘ではなく大型の荷物という認識だからである。
 巫山戯やがって。
 勝手に産んどいて勝手に生きろってか。親は子を選べないというのに無責任な連中だ。愛してくれないのならもう好きにさせてもらう。いや、もう好きにしていたけど。
 殺人鬼と一緒にいるからって止めないでよ。蘭にとって志筑とは、理想でずっと追い求めていた人なのだから。

「ねえ、次は何処に行く?」
「そうだな……」

 蘭の問を受けた志筑は考える素振りを見せ、人々が行き交う通りを静かに見る。シャッターが降りたままの建物の前に立ち止まり、屋根が作った日陰に入ってぼんやりと空を見上げる。
 志筑は左右に目を向けながら、「んー」と小さく唸っていた。初めは蘭が付いて来ることに対して面倒くさくしていたが、今ではこうして真剣に考えてくれるのだから根は優しいのだろう。
 出会ったばかりで互いのことを何も知らない二人だが、ただ一つ分かることは互いに世界から見放されたのだ。
 この逃避行が長くは続かないと理解している。それでも今こうして志筑といられるのだから、もう少しだけこのままでいたいと蘭は願う。
 志筑の腕にしがみついて身体を密着させるが、彼が動揺する素振りはない。未だ行き先に迷っているらしく、何処か上の空のままだった。
 それが残念でつまらなく、それでいて何故か安心する自分がいた。志筑はこんなことで浮かれるような人ではない。いい意味でも悪い意味でも鈍感で無頓着なのだ。
 初めて志筑の家に行った時に「乱暴されても悲しむ人はいない」なんて言ったが、あれは言葉通りの意味もあるが志筑が襲ってくるような人ではないという確信があったからだ。
 殺人鬼だが人の心を持っている。志筑は誰にも縛られず自由に生きるべき人間なのだ。

「海に行くか」

 たっぷり時間を掛けて考えついた志筑は、蘭に目を向けずある一角を見たまま言う。
 蘭も同じようにその方向を見れば、そこには『海! 海といえば海水浴! さあ、海へ行こう!』というなんとも簡単なキャッチコピーが書かれた大きな看板があった。
 色褪せていて掠れているため撤去されないまま放置されているのだろう。今は海水浴の時期ではないし、あの看板に気がついたのは志筑と蘭くらいである。

 海か。

「行く!」

 志筑との逃避行は新しいことの連続で、何もかもが楽しい。志筑が隣りにいるのなら何処へだって行ける気がした。
 嗚呼、ずっと一緒にいたい。
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