荒廃した世界で、君と非道を歩む
それから散々笑って、散々濡れて身体が疲れを訴えたため浜辺に戻った。サラサラの砂の中にも硝子の破片があるかもしれないため丁寧に靴を履く。
爪先を立ててトントンと叩き、そして振り返って性懲りもなく志筑を挑発する。
「にっひひ、ほら早く出ないと先に行くよー!」
「おい、待てよ!」
志筑が靴を履き始めたのを確認すると、蘭は笑い声を上げながらその場から走り出した。
向かい風が気持ちいい。潮風が頬を撫で、パーカーを風に靡かせながら浜辺を走る。
全力で走っていたつもりだったが、体力の無い蘭では簡単にに志筑に追いつかれてしまう。かなりの差を開けて走り出したというのにあっという間に志筑の腕の中に収められてしまった。
それでも加減してくれたのか、抱き付かれた時の反動は想像以上に小さかった。
ん? 今、抱きつかれてる?
途端に心臓がバクバクと継続的に激しく脈打ち出す。口から心臓が出たのでは無いかと錯覚するくらい激しい。今までにこんなにも心臓が暴れまわるような経験などあるはずがなかった。
「おいおい、どうした。逃げねぇのか?」
随分と優しい志筑の声が頭上から降ってきて、余計に蘭の鼓動を高鳴らせた。
(馬鹿だなあ、私。死に場所が欲しいのにこれじゃあ死ねないよ)
首元から胸元に掛けて伸びた志筑の腕に触れると、誰かに抱き締められているという実感が湧く。自分は、ずっと昔からこうして誰かに抱き締められたいと願っていたのだ。意図せずしてその願いがかなったわけだが、実際に抱き締められるとむず痒いものがある。
少し力を入れて腕を掴むと、背後から微かに声が聞こえた。今、自分が何をしているのか気づいたのだろう。
「わ、わりい」
その声が聞こえたと同時に腕が離れる。封じられていた動きが開放され、一瞬自由を取り戻した。
けれど、蘭は離れようとした志筑の腕を咄嗟に掴んだ。そしてそのまま振り返ると、腕を引いて身体と身体を密着させた。
真正面から抱き着き、志筑の胸元に耳を押し当てる。相変わらず一定のリズムを刻む志筑の鼓動に拍子抜けした。
志筑には、蘭の暴れ回るこの激しい鼓動が聞こえているのだろうか。きっと情けない表情を浮かべているのだろう。顔を隠すために深く顔を埋めた。
「ねえ、志筑」
「何」
名前を呼ぶだけでこんなにも苦しくなるものなのか、心臓が暴れていて落ち着かない。
くぐもった蘭の声は波によって掻き消されたかと思われたが、志筑の耳にはしっかりと届いていた。
出会ってから今まで、志筑はその名を呼べば優しく答えてくれた。どんな時でも、名前を呼べば振り向いてくれた。
それが何故なのかは分からないけれど、蘭にとって志筑が特別な人であるように、志筑にとっても蘭が特別な人であることを願う。
爪先を立ててトントンと叩き、そして振り返って性懲りもなく志筑を挑発する。
「にっひひ、ほら早く出ないと先に行くよー!」
「おい、待てよ!」
志筑が靴を履き始めたのを確認すると、蘭は笑い声を上げながらその場から走り出した。
向かい風が気持ちいい。潮風が頬を撫で、パーカーを風に靡かせながら浜辺を走る。
全力で走っていたつもりだったが、体力の無い蘭では簡単にに志筑に追いつかれてしまう。かなりの差を開けて走り出したというのにあっという間に志筑の腕の中に収められてしまった。
それでも加減してくれたのか、抱き付かれた時の反動は想像以上に小さかった。
ん? 今、抱きつかれてる?
途端に心臓がバクバクと継続的に激しく脈打ち出す。口から心臓が出たのでは無いかと錯覚するくらい激しい。今までにこんなにも心臓が暴れまわるような経験などあるはずがなかった。
「おいおい、どうした。逃げねぇのか?」
随分と優しい志筑の声が頭上から降ってきて、余計に蘭の鼓動を高鳴らせた。
(馬鹿だなあ、私。死に場所が欲しいのにこれじゃあ死ねないよ)
首元から胸元に掛けて伸びた志筑の腕に触れると、誰かに抱き締められているという実感が湧く。自分は、ずっと昔からこうして誰かに抱き締められたいと願っていたのだ。意図せずしてその願いがかなったわけだが、実際に抱き締められるとむず痒いものがある。
少し力を入れて腕を掴むと、背後から微かに声が聞こえた。今、自分が何をしているのか気づいたのだろう。
「わ、わりい」
その声が聞こえたと同時に腕が離れる。封じられていた動きが開放され、一瞬自由を取り戻した。
けれど、蘭は離れようとした志筑の腕を咄嗟に掴んだ。そしてそのまま振り返ると、腕を引いて身体と身体を密着させた。
真正面から抱き着き、志筑の胸元に耳を押し当てる。相変わらず一定のリズムを刻む志筑の鼓動に拍子抜けした。
志筑には、蘭の暴れ回るこの激しい鼓動が聞こえているのだろうか。きっと情けない表情を浮かべているのだろう。顔を隠すために深く顔を埋めた。
「ねえ、志筑」
「何」
名前を呼ぶだけでこんなにも苦しくなるものなのか、心臓が暴れていて落ち着かない。
くぐもった蘭の声は波によって掻き消されたかと思われたが、志筑の耳にはしっかりと届いていた。
出会ってから今まで、志筑はその名を呼べば優しく答えてくれた。どんな時でも、名前を呼べば振り向いてくれた。
それが何故なのかは分からないけれど、蘭にとって志筑が特別な人であるように、志筑にとっても蘭が特別な人であることを願う。