荒廃した世界で、君と非道を歩む
第二章 逃避行

車窓からの景色

 無数の小さな星が瞬く紺藍の空の下、夜の沿岸沿いを二人は無言のまま歩く。堤防の上を歩く蘭は、自分よりも低い位置を歩いている志筑の後頭部を見た。漆黒の頭部は夜の闇に馴染んでいる。
 潮風が心地良い。車通りが少なく、すぐ傍には山がある田舎町を宛もなく進んだ
 ざばんと音を立てながら迫り来る波を横目に、終わりの見えない道路をひたすらに歩く。街灯がなく車の一台も通らないこの道は、闇に包まれていて暗いため先がほとんど見えない。
 終わりがない宵闇はふたりの旅路を暗示しているようだった。

「後どれくらい歩いたらいいのかなぁ」
「商店も家も何もねぇからな。しばらくはこれが続くんだろう」
「流石に疲れてきたよ。誰かいないかなあ」

 伸びをするように腕を上に伸ばしながら息を吐く。志筑は辺りを見渡して、蘭を挟んだ向こう側に広がる海をぼんやり眺めた。
 静まり返った夜の道路に二人の足音が鳴る。風と波の音、聞いたこともない動物の鳴き声が微かに聞こえた。
 すると、遠くから車のエンジン音が聞こえてくる。音を聞きつけた蘭と志筑はその場に立ち止まり、背後を振り返った。
 その音は徐々に近づき、小さかったライトが眼前にまで迫った時、二人の横に車が止まっていた。
 中に乗っていた人物はクラクションを鳴らし、窓を開けて顔を覗かせる。顔を出したのは、いかにもチャラ男という風格の男だった。

「あんたら、こんな時間に何しとるん?」
「バスを逃して、街まで歩いてる」
「歩いてる!? こっから街までどんだけ距離あると思ってんねん。そっちの嬢ちゃんも、堤防の上は危ないよ。はよ降りや」

 窘められて蘭は堤防から飛び降りる。男は満足そうに笑うが志筑の発言には驚いている様子だった。
 地元の人間なのだろう。この街のことを何も知らない蘭と志筑は知らないが、この男が言うにはここから市街地までは到底歩いて行ける距離ではないらしい。
 サングラスを外した男は、二人の様子を見て何か察したようで後部座席の扉を開けた。呆気に取られる二人に男は笑い掛ける。

「乗り、街まで連れてったる」
「いいのか?」
「俺も街に行くからな。ついでやから遠慮せんでええよ」

 どうするべきかと顔を見合わせた二人は、しばらく考え込んだ。謎の男は笑っているだけでそれ以上強要する様子はない。怪しいがこちらに危害を加えるような人間には見えないため、男の好意を汲んで車に乗り込んだ。
 二人が後部座席に座ったのを確認すると男は車を発進させる。ゆっくりと走り出した車は何処までも続く沿岸沿いを走った。
 車内に鳴り響く陽気な洋楽に合わせて、機嫌がいいらしい男はハンドルを指先で叩く。ぐんぐんと進んでいく車の窓の外には、月の光を反射した海が変わらず見えていた。
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