荒廃した世界で、君と非道を歩む
 新汰の言う通り、ここら一体には小さな商店があるだけで特別賑やかな町ではない。そんな見ず知らずの町で宛もなく進み続けるのは、無謀と言っても過言ではないだろう。
 ましてや互いに不健康で常にふらふらとしている蘭を連れて遠くへ行くのは、体力的にも気力的にも辛いものがあった。

「どうや、うちのばっちゃんがやってる旅館がこの近くなんやけど、今から行かんか?」
「え?」

 新汰の提案を聞いた志筑は思わず声を荒らげた。窓の外に投げていた視線を新汰の後頭部に向ける。
 顔を動かしたときに蘭と繋いでいる手が離れてしまい、横で眠っている蘭が「うーん」と唸った。志筑と新汰は動きを止めて蘭を見るが、彼女は再び心地良さそうに眠りにつく。危うく起こすところだったと二人は胸を撫で下ろした。
 座席に埋もれるように身を預け、真っ直ぐとフロントガラスを見つめて運転をする新汰の後ろ姿を見つめる。

「いや、流石に悪い」
「まだ車に乗っけただけやろ。一人でするドライブってのはいいもんやけど、やっぱり寂しいからなあ。人がおる方が俺に合ってるんよ」

 青信号になると車は再び走り出し、すいすいと見ず知らずの町の中を進んで行く。
 新汰は志筑の曖昧な拒絶をものともせず、そのまま車を走らせた。降りるタイミングを失った志筑は、諦めて移り変わる景色に目を向けた。
 蘭と出会った街は都会のど真ん中で、人の往来も激しい。ギラギラと輝く光が嫌で堪らなかった。
 しかし今、新汰の車で走っているこの町は静かだしのどかでいい。騒がしい環境を好むらしい新汰とは反対に、志筑からすれば人が少ない方が性に合うのだった。
 車通りが疎らの道を抜け、少し進むと進行方向に趣のある老舗の旅館が現れた。
 新汰はその旅館の脇にある駐車場に車を停め、後部座席の扉を開ける。月明かりが一気に中に差し込み、蘭が目を開けた。

「お、起きた起きた。気分はどお?」
「んー、眠い」
「あんまり寝れてへんかったんかなぁ。おいで、旅館に着いたから中で志筑も休み」

 車を降りてから、新汰に連れられ二人は旅館のロビーへと入る。寝ぼけた蘭の体を支えながら中に入ると、奥から腰の低い着物のよく似合った老婆が出てきた。
 新汰はその老婆に明るく話しかける。心做しか二人の顔つきが似ているような気がしたが、親子関係なのだろうか。

「ばあちゃん、いきなりで悪いけど部屋空いてへん?」
「新汰かい。いつも言わせんなって言うとるやろ、客呼ぶ時は事前に連絡しろって」
「悪い悪い、俺もそんなつもりやなかったからさぁ。こいつら行く宛てないみたいやし、少しの間だけやから。な?」

 最後の方は老婆に耳打ちをするように言ったので、志筑の耳には届かなかった。
 新汰に丸め込まれた老婆は、ちらりと志筑と眠気眼の蘭を見る。それからしばらく考える仕草を見せると、納得のいっていない様子だが老婆は二人を迎え入れた。

「ようこそお越しくださいました。本日はゆっくりとおくつろぎくださいませ」

 それは二人を受け入れたという証拠だった。
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