荒廃した世界で、君と非道を歩む
志筑達がいる部屋から厨房へ戻ると、祖母が椅子に座って何やら小難しそうな本を読んでいた。警戒心のない無防備な姿を見て、肩から力が抜ける。
適当に近くにあった椅子を引いて祖母の前に座ると、新汰はぐったりと項垂れた。
「思い詰めているみたいやな」
「そんなんで片付けられたら苦労せんて……」
顔を伏せたまま隣りに座っている祖母を見るが、祖母は本に集中しているようで新汰の方を見ようとする気配はない。
問うておいて興味を示さない態度に怒りが湧き上がるが、それが返って新汰の心を落ち着かせた。自分が抱く懸念を祖母は簡単に切って捨てると分かっていたからだ。
「準備、してくる」
「私も行くわ」
居た堪れなさを感じて逃げ道を探すように椅子から立ち上がる。新汰が立ち上がって厨房を出てからようやく、祖母をは本を閉じて新汰を見た。
祖母があらかじめ用意していた分の食事はすでに机の上に用意されているため、新汰は自分が作った分の食事を並べる。
お盆に載せた皿を持ち上げるが、未だ手は震えているままであった。
ふと皿を並べる手を止め、少し離れた場所で正座をして準備を進める新汰を見守る祖母へ視線を移す。
目を閉じて静かに佇む祖母が聞いてくれるとは思えないとしても、今は誰かにこの心の蟠りを曝け出したかった。
「ばあちゃん、あの二人にはなんや複雑な事情があるみたいや」
「そうやろうな」
恐る恐るそう切り出してみると、祖母は想像以上にあっさりと肯定した。厳格なお面持ちを浮かべる祖母に新汰は驚きを覚えたが、すぐに食器が並んだ机に視線を落として話を続ける。
「さっき二人の部屋に行ったけど、志筑の奴がなんやおかしくてな。最近、あちこちで殺人事件が増えたやろ。せやから──」
「その殺人鬼があのお兄さんやと」
心を読んだかのような祖母の発言に、新汰ははっと顔を上げた。自分だけしか抱いていないと思っていた懸念、それは祖母も同じだったのだ。
部屋の端で正座をしたまま微動だにしない祖母は、淡々と人形に声を当てたように新汰に語って聞かせる。
「あの人らを信じてここに連れてきたんはあんたや。もし仮にお兄さんが“そう”であったとしても、連れてきたあんたには饗す義務がある。信じてやれるのは、あんたしかおらんのやで。せやから私もその手伝いをする」
すっと静かに目を開けた祖母は、怒りと悲哀を綯い交ぜにした視線を向けた。
信じてやれるのは自分しかいない。祖母の言葉が鋭い刃となって新汰の胸の奥に突き刺さる。
彼らがいつどこで出会って、何をどうしてどう生きてきたのか、新汰には知る由もない。
だが、出会ったのなら信じてやるべきなのだろう。もしも、志筑が殺人鬼で新汰を騙し裏切ったとしても。
適当に近くにあった椅子を引いて祖母の前に座ると、新汰はぐったりと項垂れた。
「思い詰めているみたいやな」
「そんなんで片付けられたら苦労せんて……」
顔を伏せたまま隣りに座っている祖母を見るが、祖母は本に集中しているようで新汰の方を見ようとする気配はない。
問うておいて興味を示さない態度に怒りが湧き上がるが、それが返って新汰の心を落ち着かせた。自分が抱く懸念を祖母は簡単に切って捨てると分かっていたからだ。
「準備、してくる」
「私も行くわ」
居た堪れなさを感じて逃げ道を探すように椅子から立ち上がる。新汰が立ち上がって厨房を出てからようやく、祖母をは本を閉じて新汰を見た。
祖母があらかじめ用意していた分の食事はすでに机の上に用意されているため、新汰は自分が作った分の食事を並べる。
お盆に載せた皿を持ち上げるが、未だ手は震えているままであった。
ふと皿を並べる手を止め、少し離れた場所で正座をして準備を進める新汰を見守る祖母へ視線を移す。
目を閉じて静かに佇む祖母が聞いてくれるとは思えないとしても、今は誰かにこの心の蟠りを曝け出したかった。
「ばあちゃん、あの二人にはなんや複雑な事情があるみたいや」
「そうやろうな」
恐る恐るそう切り出してみると、祖母は想像以上にあっさりと肯定した。厳格なお面持ちを浮かべる祖母に新汰は驚きを覚えたが、すぐに食器が並んだ机に視線を落として話を続ける。
「さっき二人の部屋に行ったけど、志筑の奴がなんやおかしくてな。最近、あちこちで殺人事件が増えたやろ。せやから──」
「その殺人鬼があのお兄さんやと」
心を読んだかのような祖母の発言に、新汰ははっと顔を上げた。自分だけしか抱いていないと思っていた懸念、それは祖母も同じだったのだ。
部屋の端で正座をしたまま微動だにしない祖母は、淡々と人形に声を当てたように新汰に語って聞かせる。
「あの人らを信じてここに連れてきたんはあんたや。もし仮にお兄さんが“そう”であったとしても、連れてきたあんたには饗す義務がある。信じてやれるのは、あんたしかおらんのやで。せやから私もその手伝いをする」
すっと静かに目を開けた祖母は、怒りと悲哀を綯い交ぜにした視線を向けた。
信じてやれるのは自分しかいない。祖母の言葉が鋭い刃となって新汰の胸の奥に突き刺さる。
彼らがいつどこで出会って、何をどうしてどう生きてきたのか、新汰には知る由もない。
だが、出会ったのなら信じてやるべきなのだろう。もしも、志筑が殺人鬼で新汰を騙し裏切ったとしても。