荒廃した世界で、君と非道を歩む
 二人が自分の作った料理を嬉しそうに食べてくれていることで、新汰の強張っていた身体と心は温かいもので満たされる。不思議な感覚だが、その気持ちの正体は分からない。

「蘭ちゃん、それ俺が作ったんやけど、どう? うまい?」
「うん、美味しい! こんな暖かい料理久々に食べたよ」

 何気ない蘭の一言が新汰の中で引っ掛かった。二人が食べている料理はどれも質素なもので、ごくありふれた家庭料理程度のものだ。
 にも関わらず、蘭は過剰に料理に対して反応を見せた。これは普段からまともな食事にありつけていないという何よりの証拠である。
 恐る恐る志筑を見れば彼も新汰と同じ気持ちを抱いたのか、箸を止めて複雑な表情をしている。
 久々と言うのならば、昔はこのような料理を口にしていたのだろうか。乞食のように必死に料理を頬張っているのも、何処かで食料を口にできなくなると不安に思っているからか。
 新汰の中でそんな憶測が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。居た堪れず助けを求めようと志筑を見ても、志筑は食事に目を落としたまま何も言わない。
 そんな二人の間に流れる暗い空気に蘭は気づかず、笑顔で料理を頬張っていた。

「あんま人の事情に首を突っ込むもんでもないけど、やっぱり気になるんよなあ」

 独り言のような、それでいて二人に語りかけるような言い方を聞きつけた志筑は睨みつけるように新汰を見る。
 またこの目だ。殺意と怒りを綯い交ぜにした、相手を恐怖に陥れる鋭い目つき。
 解けた恐怖が再び身体を縛り上げる。それでも今は退くわけにはいかない。志筑の鋭い視線に刺されながらも、その恐怖気付かないふりをして新汰は続けた。

「あんたら、出会って最初に自分達は親戚やって言っとったけど、本当は親戚とちゃうやろ。あと志筑、お前はフリーターなんかやなくて───」
「待って!」

 持っていた茶碗を机に置いて新汰の言葉を遮るように叫んだ蘭は、叫んでから慌てて口元を手で覆った。思っていたよりも大きな声が出てしまい、蘭を含むその場にいた三人が身体を強ばらせた。
 驚きの反動で頬杖を着いていた新汰の顎が机にぶつかる。「イタタタ……」と顎を擦りながら新汰は笑いかけた。

「いやあ、ごめんなあ。変なこと言ってもうたよな。すまんすまん」

 消え入りそうな声で口にした最後の謝罪とも言えない謝罪は、二人の耳にはまともに届かない。
 また二人から逃げるように立ち上がり、背を向けて目もくれずに祖母のいる台所へと逃げ込む。
 恐怖に染まった新汰の表情と逃げるような様子を見ていた志筑は、新汰の去った向かいの席を睨みつける。
 二人を交互に見比べてようやくあたりに流れていたぎこちない雰囲気に気がついた蘭もまた、複雑な顔つきになった。
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