魔法使い時々王子
シドが言い終えた瞬間、アリスは驚きも否定もせず、ただ静かに彼を見つめた。

長いあいだ胸の奥にしまっていた想いが、やっと形を持って目の前に現れた――そんな表情だった。

ゆっくりと、まばたきをひとつ。

そして、小さく笑った。



「……やっと言ってくれたわね、シド。」

声は震えていない。けれど、その瞳の奥には
ずっと張りつめていた糸がほどけていくような安堵があった。

アリスは自分の胸に手を当てる。

「初めてあなたを見たときから……どこか違うって思ってた。兄があなたの正体を話しているのを聞いて……本当のあなたを知っても、不思議と怖くも驚きもしなかったの。」

軽く息を吸い、シドの目をまっすぐに見上げる。

「だって、私は“今のあなた”を知ってるから……」

アリスの瞳が少し潤んだ。

「王子だってことより、私は“あなたがシドであること”の方がずっと大事なの。」

一歩近づき、彼の手にそっと触れる。

「正直に話してくれてありがとう。ずっと、あなたの言葉で聞きたかったの。」

夜風がふたりの間を柔らかく通り抜ける。

アリスはほんの少しだけ首を傾けて、シドの目の高さまで視線を上げた。

「ねぇシド……あなたは、今の私をどう思っているの?」

――この問いは、アリスがずっと胸に閉じていた
“本当の核心”へそっと触れる一言だった。
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