魔法使い時々王子
アリスの問いかけに、シドはすぐには答えられなかった。

夜空の下、沈黙が長く落ちる。

アリスは待っている。
逃げ道がひとつもないほど真っ直ぐな目で。

シドはそっと視線をそらし、握られたアリスの手にほんのわずか力が入った。

「……アリス。」

名前を呼ぶ声が、震えていた。

「君のことを……大事だと思ってる。誰よりも。」

アリスは何も言わず、ただ聞いていた。

シドは続けようとして、少し躊躇う。
胸の中で渦巻く感情が、喉までせり上がってくる。

「好きだよ。……ずっと前から、気づいてた。」

やっと絞り出した言葉は、ひどく静かで、でも嘘のひとかけらもない本音だった。

ただ——

その次に続く言葉だけは、どうしても綺麗にはならなかった。

「でも……君には婚姻が決まってる。
 俺が……こんなことを言って、どうなるんだって……
 正直、思ってる。」

握りしめた拳が震えている。

「俺が気持ちを伝えたところで、君を苦しませるだけかもしれない。君の道を……乱すだけかもしれない。」

言いながら、胸の奥が痛んだ。
言いたかったのはこんな言葉じゃない。
でも、言わずにはいられなかった。

ふっと自嘲気味に笑う。

「こんな気持ち……言わない方がよかったのかもしれない。」

それでも——

アリスを見つめる瞳だけは、
揺れる月明かりに照らされながら、
言葉以上に切実だった。
< 202 / 265 >

この作品をシェア

pagetop