魔法使い時々王子
ノエルが舞踏会の会場へと足を踏み入れた途端、周囲の婦人たちがざわついた。

「……誰かしら、あの方」
「とてもハンサムね」

そんな囁きが、あちこちから聞こえてくる。

ノエルはそれに気づきながらも、特に気にした様子もなく、穏やかに歩みを進めた。

「時間がなくて、仮装はできませんでしたが……」

そう言って、少しだけ肩をすくめる。

アリスはテーブルに置かれていた仮面を一つ手に取ると、そっと差し出した。

「どうぞ。これで少しは、雰囲気を楽しめるかも」

「ありがとうございます」

ノエルは柔らかな笑みを浮かべ、それを受け取る。

仮面を軽く手にしたまま、会場を見渡し——

「それにしても、すごい盛り上がりですね」

感心したように言った。

アリスはくすりと小さく笑う。

「普通の舞踏会と違って、今夜は無礼講みたい。堅苦しい挨拶も省略できるの」

くるりと周囲を見回しながら、続ける。

「だって、誰が誰だか分からないんですもの」

ほんの少し楽しげに目を細めた。

「……こんな舞踏会もあるなんて、面白いわ」
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