魔法使い時々王子
シドは王宮へ戻ると、そのまま執務室へ向かった。

久しぶりの休日だったが、不思議とすぐに眠る気にはなれない。

友人たちと過ごした時間を思い返しながら、ぼんやりと机に向かっていた。

コンコン。

不意に扉を叩く音がする。

「どうぞ」

返事をすると、静かに扉が開いた。

入ってきたのはロザリアだった。

「まだ起きていたのね」

「ロザリア様」

シドは立ち上がる。

「休みをいただき、ありがとうございました」

ロザリアは小さく微笑むと、シドの向かいではなく窓際の椅子へ腰掛けた。

そして窓の外に浮かぶ月を見上げる。

しばらく沈黙が流れた。

やがてロザリアがぽつりと呟く。

「……嵐の前の静けさかしら」

シドは思わずその横顔を見た。

この人は不思議な人だ。

圧倒的な魔力を持ちながら、それ以上に人を見る目に長けている。

何もかも見透かされているような気がすることがある。


「どこまでご存知かは分かりませんが……」

シドは静かに口を開いた。

「嵐が来た時は、この身を投げ打ってでも止めるつもりです」

ロザリアは何も言わなかった。

ただ静かに月を見つめている。

「そうなれば、僕はここを去らなければなりません」

シドは小さく笑った。

「この仕事も、続けることは出来なくなります。」

ロザリアはゆっくりと目を閉じた。

そして少しの間を置いてから口を開く。

「それが貴方にとって一番大切だと思うことなら」

静かな声だった。

「わたくしは止めません」

月明かりがロザリアの横顔を照らしている。

「思うままに生きなさい」

その言葉に、シドは手をぎゅっと握りしめた。

胸の奥が少しだけ熱くなる。

やがて静かに立ち上がると、深く頭を下げた。

「……本当に、ありがとうございます」

ロザリアは答えなかった。

ただ穏やかに微笑んでいる。

シドは顔を上げる。

そして執務室を後にした。

扉が閉まる音が静かに響く。

ロザリアはしばらくその扉を見つめていたが、やがて再び月へと視線を戻した。

窓の外には、嵐の訪れなど微塵も感じさせない、静かな夜が広がっていた。
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