魔法使い時々王子
アリスが言葉を紡ごうとした、その時だった。

「まあ、その前に」

アルシエラは穏やかに微笑むと立ち上がり、棚からティーカップを取り出した。

「ちょうど、美味しいローズティーがあるの。王宮のバラ園で摘んだ薔薇を使っているのよ」

そう言って、慣れた手つきで湯を注ぎ、丁寧に紅茶を淹れていく。

部屋いっぱいに、優しく甘い香りが広がった。

「さあ、こちらへお座りなさい」

促されるままアリスはソファーに腰を下ろす。

アルシエラから差し出されたティーカップを両手で受け取り、そっと口をつけた。

ふわりと広がる華やかな香りと、柔らかな味わい。

その一口だけで、張り詰めていた心が少しだけほどけていくようだった。

「……とても、美味しいです」

自然と零れた言葉に、アルシエラは優しく微笑む。

そして自らも紅茶を口に運ぶと、穏やかな眼差しをアリスへ向けた。

「何か、心に重くのしかかるものがあるのかしら? そんな顔をしていますよ」

その言葉に、アリスは膝の上でぎゅっと手を握り締めた。

「……国民と星晶を守るための計画を、セオに話しました」

静かな声で続ける。

「でも……セオがどんな答えを出すのか分かりません。この計画が本当に正しいのかどうかも……」

不安を吐き出すように俯くアリス。

アルシエラは何も急かさず、静かに紅茶を一口飲んだ。

そして窓の外へ視線を向け、ゆっくりと口を開く。

「あなたは、精一杯考え、精一杯悩み、自分にできる最善を尽くしてセオへ提案したのでしょう?」

アリスは小さく頷いた。

「でしたら、これから先はセオが決断する時です」

アルシエラの声は穏やかでありながら、どこか力強かった。

「あなたの役目は、もう立派に果たされたのですよ」

その言葉に、アリスははっとしたように顔を上げる。

今まで張り詰めていた心が、少しだけ軽くなった気がした。
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