その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 マーケットの中は、どこもかしこも賑やかだった。
 お土産コーナーには「BOSTON」ロゴ入りのTシャツやトートバッグ、地図柄のマグネットなどがずらりと並んでいる。澪がふと立ち止まったのは、そのなかでも――マグカップの棚だった。

 「あ、これ可愛い!」

 ちょっとはにかんだような笑顔で、マグカップを手に取ってひょいと見せてくる。どこか懐かしいアメリカンなデザインの、赤とネイビーのマグカップ。
 
 「……そんなベタなやつ、いるか?」
 「旅の記念ですから!ちゃんと実用的だし……!」

 心の声が漏れてしまったが、否定ではなかった。何よりそのはしゃいだ表情が、どうしようもなく可愛く見えた。

 そう思うと自分の手も自然に動いて、彼女が手にしていたものと柄違いのマグカップを一つ棚から取る。

 「じゃあ、俺の分も」
 「えっ……真澄さんも?」

 おそろいですね、と澪が口元をふにゃっと緩めて笑った。

 今朝の朝食に使っていたマグカップは、すでに二人の日常の中に何の違和感もなく溶け込んでいる。

 (……そういうのも、悪くない)

 あのカップで澪が嬉しそうにカフェオレを飲んでいたのを思い出して、真澄は、静かにひとつ息を吐いた。



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