その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「あ、鷹野先生!柊木先生からお土産ですよ。ひとつどうですか?」


 看護師の一人が、廊下を通りかかった男に声をかけた。
 羽織った白衣のポケットに手を入れて、どこか芝居がかった笑みを浮かべる男――同じ第一外科の鷹野医師だった。

 「……ああ、学会に行ってたんでしたっけ。随分と浮かれていたので、てっきりただの旅行なのかと思っていましたよ」

 彼は手を伸ばすこともなく、ただちらりと土産の箱に視線を落とす。

 「ただ浮かれていただけに見えたなら、それは学会という場で何を見て何を得るべきかをあなたが知らないというだけの話でしょう」

 真澄の言葉に、足がぴたりと止まる。

 「研究も症例報告も、臨床に還元するためにある。それが分からない人間はいつまでも《《見ているだけ》》なんでしょうけど」

 鷹野医師は一瞬表情を強ばらせながらも、結局何も言い返さずにその場を立ち去った。

 「うわぁ……」

 看護師たちの間に、小さなどよめきと気まずさが残る。

 「鷹野先生って前から柊木先生に当たり強いですよね?この間のカンファレンスのときも、あれ完全にあてつけっていうか……」

 「柊木先生、よくあんな嫌味に即座に反応できますね?」

 「別に、思っていることを言っただけです」

 真澄は淡々と、ファイルを閉じた。

 「回診に行ってきます。午後の術式、抜け漏れがないか確認しておいてください」

 それ以上言葉を重ねることもなく背を向ける。

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