その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 モニターに映るたった一行のデータが、視界の奥でじわじわと膨らんでいく。
 同時に、頭の奥が急激に冷えていくような感覚に襲われた。

 (小野寺瑞恵――手術を延期されたのは…澪の母親だった)

 おそらく、鷹野医師もこの記録を見たのだろう。

 (……だから『手術が後回しにされた』と言ったのか)

 鷹野自身は真澄が行う手術を最後まで反対していた。

 同日同時刻に予定されていた手術の延期――院内で何らかの力が働いたと踏んだに違いない。
 そして、お前の母親は見殺しにされたかもしれないと、澪の心に爆弾を放り込んだ。

 それが、柊木真澄の妻だからこその、意図的な揺さぶりだったとしたら…?

 (ちゃんと知る必要がある…すべてを)

 真澄は、さらに検索を進めた。
 変更理由は空白だったが、手術部記録には入力者の名が残っているのを見つけた。手術部調整担当は島津聡子とある。 

 「……えっ、島津さん?」

 驚きで声が出た。

 彼女は今の脳神経外科の看護師長だ。現場での適切な判断力を発揮する、後輩たちに頼られる脳外病棟の看護責任者。

 (島津さんなら覚えているかもしれない。五年前の判断も、その理由も)

 真澄はノートPCを持って立ち上がった。


 (何が真実なのか、確かめないといけない)


 それは、澪のためだけじゃない。
 自分が今、目の前にいる彼女と生きていくために、避けては通れない答えだった。

 澪を守るためにも。
 そして、自分がこれから彼女の隣りにいることに迷いを抱かないためにも。

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