その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています

エピローグ

 二年後―――

 「澪、カフェオレ飲む?」

 キッチンからかけられた声に顔を上げると、カウンター越しに振り向く真澄と目が合った。リビングには、天井の間接照明だけが柔らかな光を落としていて、窓の外の夜景を淡く照らしている。

 あれから二年が経った。

 妹のひよりは無事に成人し、もうあのころのように澪が何もかも背負い込む必要はなくなった。それでも日々の連絡は変わらず続いていて、大学の授業にバイトにと忙しくしている様子が送られてきている。

 「うーん…今日はホットミルクにしようかな」
 「了解」

 返事をした真澄がマグカップに温めたミルクを注ぐ。

 真澄とも、この二年で今ではすっかり夫婦らしくなった。

 朝のコーヒーの香りや食後の穏やかな時間、お互いの息づかい。
 共に暮らす日々の中で、今ではないと落ち着かないくらい澪にとっては大事な生活の一部になっている。

 「何読んでるんだ?」
 「これ?この前発表された新薬の臨床結果のレポート」

 真澄が淹れてくれたカップを受け取りながら答える。

 「あぁ、血液がん治療のやつか。先月海外の研究チームが発表していたな」
 「うん。従来の分子標的薬だと正常な造血細胞まで影響して副作用が強かったんだけど、この新薬は受容体をピンポイントで狙う設計になってるの」

 澪が一念発起して英語の勉強を始めて二年。
 まだ専門用語の羅列には圧倒されるものの、海外の論文も少しずつではあるけれど読み進められるようになった。

 「副作用の発症率が従来の半分以下で、奏効率も従来より10%以上上昇。高リスク群では20%近く改善か…実用化されたら画期的だな」

 真澄が興味深そうに手元のレポートを覗き込む横顔を、澪は顔をほころばせながら見つめた。

 こんな何でもない時間が一番愛おしい。

 ――今夜みたいな日は、特にそう思う。


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