その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「五年前のあの日、俺は手術に成功して名声を得たかもしれない。でも、そんなことよりもっと大事にしたいことがある」

 少しだけ視線を落とし、それから、まっすぐに澪を見た。

 「副院長の話は断る。蒼林の名前を売るためのポジションに、俺は興味がないから」
 「でも、大丈夫なんですか?」
 「追い出すならやってみればいい」

 真澄は静かに、けれど不敵に微笑んだ。
 本当にこの人はいつも迷いがない。そんなことを思いながら澪もつなぐ手に力を込める。

 「たとえどこへでも、私はついていきますから」
 「あぁ、一緒にな」

 真澄の目がやわらかく細められて、二人はお互いに笑い合う。
 木の葉が風に揺れ、どこかで金木犀がふんわりと香った。
 
 真澄の目が、優しく澪の瞳をとらえる。
 そっと、どちらからともなく距離が縮まり――

 二人は、静かに唇を重ねた。

 この人となら、どんな未来も安心して歩いていける。
 季節が巡っても、隣にいる笑顔を守っていける。


 今なら、ちゃんと言える。

 ――お母さん、ありがとう。
 これからはちゃんと、前に進むから。


 あなたが望んでくれた未来で――幸せになるから。


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