その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「でも外科医って指輪はつけられないんじゃ…?私も病院やクリニックに出入りしますし…」
 「オペ中や病棟では外すが、勤務外にはつけている同僚はいる。俺もそうするつもりだ。君もオフィスでの着用が禁止されてるわけじゃないなら問題ないだろ?」

 そう言われて既婚者である部長や他の先輩を思い浮かべる。確かに営業所では、指輪をつけている人もいるけれど。

 (それなら指輪は必要ないな、ってあっさり言われると思ってたのに…)

 もう一度、目の前のお店の外観を見上げる。
 ここがどれだけ格式の高いブランドか、自分も多少の知識はある。最低価格のラインでも数十万はするはずだ。

 お互いの利害が一致しただけの、契約結婚。
 ここまで本物の夫婦みたいにする必要はないのに。

 「……あの、本当にいいんですか?」

 「いいに決まってる。そうでなければ連れてこない」

 ぐっと手を引かれる。それは強引ではなく、あくまで自然なエスコートだった。

 それだけで澪の心臓はぎゅうっと締めつけられる。けれど、重なった手のぬくもりは頼もしくて、その手に包まれているだけで胸のざわつきが落ち着いていく。

 (ドキドキさせられるのも落ち着かせるのも、どっちもこの人の手……なんて変なの…)

 戸惑いながらも逆らう理由も見つからないまま、澪は真澄の手に導かれてガラス扉の向こうへと足を踏み入れた。

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