その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 店員に通されたのは、奥まった半個室のようなブースだった。
 大理石調のテーブルの上には、深いバーガンディのベルベットが敷かれている。そして、目の前に並べられていくリングの数々。

 どれもきらびやかで、でも上品で繊細だけれど。

 「あの、選ぶのって結婚指輪じゃないんですか?」
 「それもだが婚約指輪も買ってないだろ。順序が逆になったけど好きなのを選べ」

 (いや、選べって言われても……!)

 「見てるだけじゃ分からないだろ。つけてみないと」

 戸惑っていると、真澄が澪の左手を取って薬指に指輪をはめてくる。
 そこから伝わってくる金属のひんやりとした感触。

 「悪くないな」

 静かに澪の手元に向けられている目。見つめられているわけじゃないのに、無性にドキドキしてしまう。

 「こっちのカットも試してみるか」
 「だ、大丈夫です自分でやります…!」

 澪は隣りの指輪を手に取って、慎重に指にはめていく。
 指輪を試す横顔を、真澄は静かに見つめていた。その表情は普段と変わらない涼やかで、どこか優しくて。

 (こんなの、本当に夫婦として選びにきてるみたい…)

 いや、実際もう籍は入れた。
 今日からは夫婦になったのだ。でもこんな展開は心が追いつかない。

 「最後はこれだな」

 細身のリングに、中央で大粒のダイヤが一石。その両脇を小粒のストーンが包むように流れを描いて――その美しさに目を奪われる。

 おそるおそる手に取って薬指にはめる。
 手の甲に落ちたライトの光が、指輪の面に跳ね返って七色に煌めいた。

 「……うわぁ、綺麗……」

 あまりの美しさに、つい感嘆の声がこぼれてしまった。

 「気に入ったか?」
 「えっ、あ、いえあの…」
 「大変お似合いですよ。ちなみにこちらには、重ねづけできる結婚指輪もございます」
 「じゃあ、それも試させてください」

 店員のそつのない提案に、真澄は迷いなく答えていた。
 再びブースに運ばれてきたトレーには、同シリーズのペアリング。

 「女性用はこちらです。重ねるとこのように――」

 言われるままに、婚約指輪の下に結婚指輪を通す。細身のプラチナに極小のダイヤがぐるりと敷き詰められた、まさに結婚指輪のイメージそのもの。

 「…すごく素敵ですね」

 隣りでは、店員が男性用のリングを差し出している。

 「こちらが男性用です。地金はプラチナで幅がやや広めになっております」

 真澄はそれを手に取り、ためらうことなく左手の薬指にはめた。
 その所作は、やっぱり迷いがなくて。

 (本当にこの人は――)

 なんでもない顔で夫婦をやってのける。
 たとえそれが役割だからだと分かっていても、今日はなぜか心を乱されてしまう。

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