その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 ◇◇◇◇

 翌朝の月曜日。
 朝の通勤ラッシュを抜けて、ビルのエントランスをくぐる。営業所の入っている六階でエレベーターを降りると、IDカードをかざしてドアを開けた。

 「おはようございます」

 澪はいつも通り出社の打刻を済ませると、さりげなく左手をジャケットのポケットに入れる。

 (やっぱり、指輪の感触にはまだ慣れないな…)

 さすがに婚約指輪は華やかすぎるので、結婚指輪だけ。
 それでもその存在感は十分すぎる。

 見せびらかすつもりなんてない。むしろできることなら目立たずに、いつも通り業務に入りたかった。
 けれどオフィスのドアを開けた瞬間、その望みは儚く砕け散ることになる。

 「ちょっと小野寺さんっ!」
 「えっ、お、おはようございます…!?」

 いきなり名前を呼ばれて驚く澪に、同僚はテンション高く詰め寄ってきた。

 「もう!聞きましたよ!?結婚したってほんとですか!?」
 「な、どこでそれを…?」
 「部長が言いふらしてました!」
 「部長――っ!?」

 思わず視線を送ると、数席先のデスクでこちらを見ていた部長が「ごめんね?」とでも言うように、手を合わせてへらっと頭を下げてくる。

 (そっか、先週末に申請書類を出したから…っていうか私のプライバシーはどこへ!?)

 「もうオフィス中の噂ですよ!?しかも相手があの柊木真澄先生なんて!」
 「ちょ、ちょっと声が!聞こえてますから!」

 (ああ……静かに出社したかっただけなのに……)

 周囲の注目を一身に浴びて、周りにはわらわらと同僚が集まってくる。
 澪はため息が出そうになった。

 でも騒がれるのも無理はないかもしれない。だって相手は蒼林大学病院の天才外科医。経歴も評判も、さらには容姿まで完璧で非の打ち所がない柊木真澄なのだから。

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