その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「で、いつ柊木先生と出会ってたんですか!?付き合ってどれくらい!?」

 「えっと、栄邦ファーマの年始のパーティーで出会って…交際は半年くらい…」

 二人で打ち合わせした内容をそのまま復唱するかのように話していく。丸暗記しておいてよかった、とこのときばかりは真澄の完璧主義さに感謝したくなった。

 「じゃあ先月納品のピンチヒッターしてもらったとき、もう付き合ってたってことですか!?もう言ってくださいよ~」
 「えっと…ごめんね?」

 (……違うの。あの日が初対面だったんだよ)

 あのとき代理で納品に行かなければ。
 先方が発注ミスをしていなければ。

 (自分はあの人に会うことはなくて、契約結婚を持ちかけられることもなかった)

 あの日をきっかけに、自分の人生がこんなにも変わっていくなんて。
 この一ヶ月は、本当に怒涛だったと振り返って思う。

 「じゃあプロポーズはどんな感じだったんですか!?やっぱロマンチックに?」
 「えっ、えっと…それは……」

 (まさかレストランで『契約結婚しよう』と言われたなんて、言えるわけない…)

 「それは二人だけの秘密ってことで…」
 「ていうか指輪すっごい高そう!見せてくださいよ〜〜!」
 「い、いやちょっと待って……!」

 矢継ぎ早に四方八方から飛んでくる質問に目が回りそうになる。

 「ところで、結婚式は挙げないんですか?」
 「うん、向こうも仕事が忙しいし今のところは考えてないの」

 これも、打ち合わせ済みの内容。

 「ええーそうなんですね、残念!絶対柊木先生のタキシード姿かっこいいのに~」

 曖昧に微笑んで、うなずく。

 「ほら、そろそろ仕事に戻った戻った!」
 「はぁ〜い!」
 「あ、今日結婚祝いの飲み会やるんで、そのつもりでいてくださいね~?」

 ひとしきり騒がれたあと、オフィスにいつもの空気が戻ってくる。キーボードの音に取引先からの電話と日常が音を立てて動き出す。
 澪は自席で端末に向かいながら、小さくため息をついた。

 (結婚式、か……)

 式を行わないことはお互いに決めて納得している。
 でも、これがもし普通の結婚だったら、あの人はどんな式を挙げたんだろうか。

 (絶対にかっこいいはずだよね…)

 きっと誰より似合うであろうタキシード姿が見られないことは、ちょっとだけ――ほんの少しだけ、残念に思った。

 (って、何考えてるんだろ私…!)

 浮かんでしまったイメージを振り払うように、首を横に振る。
 パソコンのキーボードに置いた左手に視線を落とすと、左手の薬指には彼がはめてくれた結婚指輪がきらりと光っていた。

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