その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 職場と、定時後の飲み会。
 どちらも話題の渦中に置かれたこともあって、今日はいつも以上にぐったりだった。帰りの電車では危うく、二人で暮らすはずのマンションではなく、実家のある方面行きに乗りそうになってしまったほど。

 どうにか重い足取りでマンションに辿り着く。今日は真澄も急患が入ったらしく、まだ帰宅していなかった。
 先にお風呂へ入らせてもらい、寝る準備を整えているとガチャリと玄関のドアが開く音がする。

 「あ、おかえりなさい」
 「……ただいま」

 一拍の間を置いて、真澄は廊下を進みながら息をついた。

 「帰ってきて明かりがついているから、一瞬違う部屋かと思った」

 そう笑いながらジャケットを脱ぐ姿は、白衣の下で常に完璧を求める天才外科医とは少し違っていた。どこか肩の力が抜けたような、柔らかい表情。プライベートな表情を垣間見たようで胸の奥がくすぐったくなる。

 「ふふ、間違えてたら大問題ですよ?」
 「確かにな。でも、帰ってきて誰かに迎えられるというのは……結構いいものだな」

 ふと正面から視線が合う。

 「慣れそうで怖い」
 「え……?」

 一瞬、何を言われたのか分からず澪はまばたきをする。

 「いや、何でもない。飲み会は楽しかったか?」
 「あ、はい…なんかすみません、私は楽しんできちゃって」
 「そんなことを気にする必要はない。ただ…少し飲みすぎだな」

 真澄は澪の頬に手を添える。

 「顔が火照ってるし目も充血気味だ。まばたきの頻度がいつもより遅い。指先の震えはなし、中枢神経には影響なさそうだな」
 「……酔っ払いの診察もするんですね」
 「医者だからな。便利だろ?」

 冗談めかした言い方に思わず笑ってしまいそうになる。真澄はキッチンへ向かい、やがてグラスを二つ手に戻ってきた。

 「ちゃんと水も飲め。じゃないと明日むくむぞ」
 「ありがとうございます」

 渡されたグラスに口をつけると、ほんのりと爽やかな酸味が広がる。

 「これ、レモン水ですか?」
 「脱水予防と代謝促進にいい。飲んで損はない」

 
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