その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 澪はグラスの中身を静かに飲み干してから、ソファの背にもたれて大きく息をついた。

 「深いため息だな」
 「職場でも飲み会でも質問攻めだったんで……」
 「そんなにか?」
 「朝から『本当に結婚したんですか!?』の嵐で。しかも『お相手があの柊木真澄先生だなんて!』って、もう大騒ぎでした」

 言いながら思い出して、澪は手で自分の顔を覆いたくなる。

 「それはすまなかった」
 「いえ、柊木さんが謝ることじゃないですけど……」
 「澪、名前」
 「あ、そうでした…真澄さん…」

 まだ呼びなれない名前。何となく照れくささが隠しきれなくて、澪は空になったグラスを手の中でもてあそぶ。

 「真澄さんは職場で騒がれたりしなかったんですか?この前の薬剤部の女性陣すごかったですよ?結婚したなんて知れたら大騒ぎなんじゃないかと思って」

 ちょっとだけ茶化すように言ってみたけれど、真澄はあっさりと首を横に振る。

 「いや、そうでもなかったな」
 「えっ……そうなんですか?」
 「一応上には報告はしてあるけど現場では公表していないからな。院内では指輪もつけてないから、まだ気づかれていないのかもしれない」
 「……なんか、私ばっかり不公平です」

 澪はぷいと唇を尖らせる。

 「そう言われてもな」
 「今だってつけてないじゃないですか」
 「……ああ、それは」
 「業務外ではつけるって言ってたのに」

 いつもなら、こんな子どもっぽい言い方はしない。それが少しだけ気持ちがこぼれてしまったのは、酔いのせいかもしれなかった。

 「…そういうことを言うんだな」

 真澄が呟く声が聞こえる。

 「呆れました?」
 「いや、可愛い」

 それは、まったく予想していなかった答えだった。
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