その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 着替え終えてフィッティングルームから出てくると、店員がにこやかに声をかけてきた。

 「お疲れさまでした。よろしければ、このままパーティー用のメイクもお試しになりませんか?」
 「メイクですか?」

 ドレスショップなのに?ときょとんとする澪に、店員は続けた。

 「はい、弊社と提携しているコスメブランドを使ってのメイクアップを無料で体験していただけます。よろしければいかがですか?」
 「あ……えっと、でも……」
 「写真撮影もあるし、ちょうどいいんじゃないか?」

 確かに、今選んだドレスに合わせたメイクもプロから教えてもらいたい気もする。視線を逸らしながら、澪は困ったように口をすぼめた。

 「でも、ここでメイク落とすのってちょっと恥ずかしいというか……」

 すると、真澄が何の気なしに――けれど平然とした口調で言った。

 「澪のすっぴんなら、もう何度も見てる」
 「ちょ、そっ……そういうこと言わないでください!!」

 耳まで真っ赤にして澪が抗議すると、真澄は何食わぬ顔で言い返す。

 「でも事実だろ」
 「そうじゃなくて~~!!」

 なんでそれを、こんな人前で堂々と!
 慌てふためく澪の横で、店員は気まずそうに口元に手を添えながらも、わずかに頬を赤らめていた。

 「分かった、じゃあ俺は向こうで待ってる」
 「え……?」
 「すっぴんはいいとして、メイクしてるところを見られるのって、気になるだろ?」

 さらりとそれだけを言い残して、真澄は店の奥の待合スペースへと向かっていった。

 (……もう、何なのほんとに……)

 自分ばかり翻弄されている。

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