その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています

第五章 止められない気持ち

 翌日の月曜の夜。
 実家に立ち寄ってから、澪は一人マンションへの帰路についた。

 バッグの中には内容証明郵便の封筒が入っている。その事実だけで、今はまるで鉛のようにずっしりと重く感じる。

 中身は、仕事帰りに実家で確認してきた。
 差出人は、ひよりの実母側の代理人弁護士。形式も文面も、弁護士名で作成された法的な通告書だった。

 いつかこうなるかもしれない。
 そんな予感は、ずっと心の片隅にあった。

 それでも、現実として突きつけられたそれは、想像していた以上に冷たくて、容赦がなかった。

 『当方は、小野寺ひより氏の親権および監護権を回復するため、貴殿に対し家庭裁判所に申し立てを行う準備を進めております。
 親権および監護権変更に応じられない場合、必要経費および精神的損害に対する慰謝料として、金一千万円の支払いを求めます。支払いが行われない場合、直ちに法的措置を講じる所存です』

 さらにその続きには、澪の勤務先や平均年収、役所への提出書類まで把握されているかのような内容も記載されていた。

 (……どこまで、調べられてるの……?)

 すべてを知られているのかもしれない、という恐怖を感じる。二人に心配をかけまいと「大丈夫だから」言って実家を出たものの、心の中はぐらぐらと揺れていた。

 どうしたらいいんだろう。
 誰に、何を、どこまで話せばいいの?

 声にはならないその問いが、心の奥で何度も反響する。

 (私は、ちゃんとひよりを守れるのかな……?)

 歩く足取りが、いつもよりずっと重かった。

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