その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「何があった?」

 言葉を探すように視線を落として、曖昧に笑おうとしたその瞬間。

 「澪、俺たちは夫婦になったんだろ?一人で抱え込むな。何かあるなら俺に話せ」

 真澄の声は冷静で、少しだけ柔らかかった。その静かな言葉に澪はほんの一瞬ためらって――意を決してバッグの中から封筒を取り出した。

 「……昨日、実家にこれが届いていたんです」

 差し出した封筒を真澄が受け取る。
 中身に目を通すうちに、その表情がゆっくりと険しくなっていく。そして読み終えると、封筒をテーブルの上に置いた。

 「……やり方が悪質すぎるな。ほとんど脅しだ」

 静かに告げたあと、真澄はすぐに視線を澪に戻す。

 「どこかに相談したのか?法律事務所とか」
 「いえ、まだです…」
 「知り合いに信頼できる弁護士がいる。腕も確かだし、頭も切れるやつだから役に立つはずだ。今夜中に連絡を取ってみる」

 (駄目だ、それじゃ完全に真澄さんを巻き込んでしまう…)

 ひよりを守れる肩書きと生活環境を手に入れるため。
 そんな打算でこの結婚に同意した。
 
 でも、まさかこんなふうに脅しのような文面を送られてくると思わなかった。自分の考えが甘かったのだ。

 「大丈夫です、弁護士さんは私のほうで探しますし、裁判になったとしても真澄さんに迷惑は…」

 知らずに声が震える。
 それをごまかすように早口で言うと、ぐっと体が引き寄せられた。

 
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