その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 ◇◇◇◇

 「こんばんは、仁科です。お邪魔するね」
 「こちらこそよろしくお願いします」

 二日後の夜。
 真澄が信頼しているという弁護士――仁科創(にしなそう)がマンションにやってきた。

 「お前から結婚するって聞いてたけどさ、本当に奥さんいたんだな~。しかもこんな可愛い人って……マジでビビった。俺、紹介されるまで架空の設定かと思って」
 「くだらないこと言ってないで仕事をしろ」
 「はいはい、分かってるよ」

 仁科はリビングに通されると、すぐに態度を切り替える。澪から内容証明を受け取ると素早く目を通した。

 「……なるほどねぇ。けっこう強気に出てきてるな」

 読み進めるごとに、仁科の表情から軽さが消えていく。

 「親権と金銭請求を絡めた記述もかなり法的にグレーなラインだし、もしかしたら相手はカタギの弁護士じゃないかも」

 カタギじゃない、という表現に澪はびくりとする。

 「失礼だけど、妹さんの学費や生活費は?」
 「両親が遺してくれた資金があるので、大学卒業までの学費は問題ありません。家のローンも完済済みです」
 「そのことを先方には?」
 「……伝えたかもしれません。何度か、こちらの経済状況を不安視するようなことを言われたときに」

 澪を記憶を辿るようにして答える。

 「そっか、それが引き金かもしれないな」
 「え……?」

 仁科は静かに頷いたが、その目がわずかに鋭さを帯びた。

 「『申し立てを取り下げてほしいなら金を払え』。きっとある程度の財産があると踏んで、妹さんをダシに金を引き出そうとしているんだと思う」
 「そんな……」
 「もしかすると、本気で親権を取り戻す気はないのかもしれない。今は『慰謝料一千万』なんて金額を出してきてるけど、こっち側が妥協して半額の五百万くらい取れれば儲け、くらいの感覚だと思う」

 やっぱりこの話はおかしかったんだと、その言葉を聞いて確信に変わる。
 ひよりを本気で育てる気も、暮らしたいという思いもないのかもしれない。ただお金のため――そう思うと、強い憤りでどうにかなりそうだった。

 「さて、今後どうしていくかだけど」

 仁科は真顔に戻って続ける。

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