その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 ◇◇◇◇

 示談の場は、都内の貸会議室の一室で行われた。
 静かな会議室に、重たい空気が漂う。

 「私は妹を守りたい、それだけです。高校にも進学してきちんと通っていますし、生活面でも仕事をしながら責任を果たしてきたつもりです」

 はじめは緊張で言葉が出なかった澪だったが、守りたいものを思うと自然と背筋が伸びた。けれどすぐに、弁護士が表情を引き締めて反撃に出た。

 「こちらは生みの親です。施設に預けたのも、止むに止まれぬ事情があったからです。本人は今もそのことを悔いています」

 その言葉に、隣の仁科が「うそつけ」とぼそっと呟く。
 おい、と真澄が小声で牽制したが、澪の耳にはすべて届いていた。

 「お姉さんも結婚したばかりですね?今後、家庭が変化する可能性だってある。収入や環境が崩れれば、妹さんに不利益が及ぶリスクも――」
 「彼女は定職に就き、生活は十分に安定している。それに、今は結婚して俺がいる」

 相手弁護士が顔を上げた。
 真澄の視線は少しの揺らぎもなく、鋭く相手を射抜いている。

 
< 69 / 127 >

この作品をシェア

pagetop