その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「蒼林大学病院で外科医を務めている。万一のことがあればこちらがサポートする体制は整っている」

 テーブルの上に静かに置かれた書類。
 そこには、真澄の職務経歴と収入証明がきっちり揃えられていた。

 「あと、これだけは言わせてください。妹の親権を争うかたちで、こちらから金銭をお支払いするつもりはありません」

 澪の言葉に、相手側の弁護士は顔色一つ変えない。

 「以前提出いただいた資料では、ひよりさんの学資の積立もありましたね。そこまで経済的にお困りのようには思えません。なのに親権を争うにあたって金銭を一切払う気がないというのであれば……その程度の愛情しかお持ちでない、という理解でよろしいでしょうか?」

 (……その程度の愛情?)

 耳を疑った。この弁護士は今まで何を聞いていたのだろうか。
 これまでのひよりとの十七年間を踏みにじられた思いがして、涙が滲みそうになる。

 (泣いちゃ駄目、絶対…)
 
 姉は情緒不安定、そんなレッテルを貼られかねない。
 澪は強く、膝の上でぎゅっと握られる。
 静かな怒りと、傷つけられた感情が入り混じって、息が詰まりそうになる。

 何か言わないと、そう思って口を開きかけたとき。

 「その発言は、看過できない」

 真澄が低く静かに口を開いた。
 その声にははっきりとした怒気が混じっている。

 さっきまで薄ら笑いすら浮かべていた弁護士が、ぴたりと表情を止める。

 「愛情の深さを金で測り、思い通りに引き出そうとするような真似こそ愛情とは程遠い行為だ。これ以上、彼女を侮辱する発言を続けるなら――」

 机の下で、真澄の手がそっと澪の手を握る。

 「こちらから法的手段に出ます」
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