その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 「そ、そこまでしてもらうのも……!だって、予約してたのはこっちの部屋なんですよね?」
 「まあ、そうだけど」
 「ほら、こんなに広いですし!あの、キングサイズですし」
 「ベッドのサイズで安心していいのかは分からないが」

 さらりと投げられた言葉に、澪の頬が一気に熱くなる。

 「っ……な、なに言ってるんですか……!」

 顔をそむけると、真澄は小さく肩をすくめた。

 「冗談だ」

 ぐい、と視線を逸らして澪はスーツケースを取りにリビングへ逃げる。
 
 (もうっ……!ほんと、からかってるだけなんだよね!?)

 恥ずかしさを押し隠すように背中を向けると、背後からクスッと笑う気配がした。その余裕のある笑い声が、余計に心臓の鼓動を速める。

 「今日はもう予定ないし、部屋でのんびりしよう。澪も疲れてるだろ」
 「……はい」

 真澄はソファに腰を下ろし、タブレットを開く。

 「明日の準備もあるし、今日の夕食は街には出ずにホテルの中のレストランにでもいいか?」
 「もちろんです。何か、飲み物いれましょうか」
 「あぁ、紅茶があると助かる」

 澪は備え付けのティーセットを手に取った。
 電気ケトルでお湯が沸くのを待ちながら、チラリと真澄の後ろ姿が見える。

 スーツのジャケットを脱いでシャツの袖をまくった真澄は、明日ステージに立つ天才外科医とはまるで別人のようにくつろいでいて――思わず、熱くなった顔を隠すように顔を背けた。
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