その天才外科医は甘すぎる~契約結婚のはずが溺愛されています
 真澄はどの相手にも穏やかに対応し、時に英語、時にフランス語すら混ぜながら話している。澪はそこから少し下がった場所で、ただ圧倒されるばかりだった。
 がっしりと握手を交わしたあと、彼は真澄に笑顔でこう言った。

 「You're the one who performed the reverse-flow BBA case in Tokyo, five years ago, right?」

 教授は続けて、何人かの同行者に向けて話す。

 「…リバースフロー・BBA?」

 唯一聞き取れた単語を復唱していると、神谷さんが笑った。

 「五年前に発表された症例の話をしてるの。逆流脳底動脈瘤手術の、日本初の症例を成功されたんだから当然だけど」
 「そんなに有名なんですか?」
 「そりゃもう!というよりあの手術は今でも伝説だよ。巨大な脳底部動脈瘤っていうハイリスク症例で開頭手術も不可、誰もが匙を投げていたケースだった。リアルタイムの逆流解析とステント誘導を同時に使ったのは、あれが世界で初めてだったし」

 コーディネーターの彼女ですら、興奮気味に話している。

 「しかも余命数ヶ月を宣告されていた患者は、失語や麻痺もなく社会復帰。まさにミラクルだよ」

 (真澄さん……そんなに、すごい人なんだ)

 もちろん知っていた。
 天才外科医と呼ばれていることも、病院でも一目置かれていることも。
 
 真澄のことは、知っていたはずだった。

 でも、こうして世界の中で語られている彼を見ると、今まで感じていた距離がさらに一段階遠ざかったような気がして――

 
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